84話目 大事なほうれんそう
翌日、私は次なる機械を作ろうと、再び残念なロリのいる工房へおもむいた。
「ん?」
お嬢様とモーフィーと、あとはエルフが数人、台車を押して帰るところだった。すぐに後ろ姿は見えなくなる。
「ガイだわさ~! ちょうど今、キューブの補充が来た所だわさ」
やはりお嬢様たちは、エネルギーを運んできていたらしい。
「王女様も頑張ってるだわさ。エルフのみんなとも打ち解けてるし、悪女とかいうウワサもアテにならないだわさ」
私がお付きだというのはすでに知っている。そもそも、この工房もお嬢様に紹介されたしな。
「ん~、それだけに、工場の閉鎖は惜しいだわさ~」
――なに?
「ロザンネさん。今、なんとおっしゃいました?」
「え? ――あちょ、もしかしてガイ、知らなかっただわさ?」
「初耳でした」
「じゃあ、オフレコで頼むだわさ。――ウチは取引先だから、今年いっぱいで終わるっていうのを言いに来てくれただわさ。良心的だけど、それだけに、いいお相手が終わっちゃうのは悲しいだわさ」
私は礼を言うと、すぐさま工場へ向かった。
「なんだ、これは……」
以前見たときも灰色のキューブが多かったが、今は工場の外にシートを敷いて積み重ねられている。
「みんな、頑張りましょう!」
「はい!」
中からは、お嬢様の声に続いて大勢の声が聞こえてきた。関係はすこぶる良好らしい。
私はそっと中をうかがった。やはりというべきか、中にも灰色のキューブがごちゃごちゃと置かれている。各々が作業をしているものの、非常にジャマそうだ。
閉店セール中で繁盛しているのか? ――いや、エネルギーキューブは安定供給される類のものだ。工場を閉鎖するというなら、取引先はむしろ次々と乗り換えるハズ。
なのにキューブが増えているのは……オカシイ。
「今日は、この青キューブをお城向けに作るのが目的だから! これさえ作ればしのげるわ! 頑張って!」
「はい!」
お嬢様が高らかに持ち上げたのは、水を出すのに使われる青いキューブだった。ロザンネの所にあったのが赤い火力キューブだったから、日によって様々なキューブを作っているのだろう。
声を掛けたかったが、今は仕事中である。手を止めるのもはばかられたので、私はカレー店とエアロビ店を回ることにした。
「お嬢様」
いつものように情報交換の場で、私は切り出した。
「お城用のキューブは、間に合いましたか?」
「ええ、なんとかね! ――何よ、ガイ。工場に来てたの? なら言ってよ~、挨拶ぐらいしたのに」
「拙者も挨拶したかったですワン」
「そうですか」
私はお嬢様とモーフィーを見た。
「お2人とも、何か言い忘れてないですか? 工場に関するヒミツを」
「ワンッ!?」
モーフィーは驚いたが、お嬢様を見て口をつぐんだ。――ああ、主君に仕える良い犬だな。フリスビーぶつけるぞ。
「お嬢様。おっしゃって下さい」
じっと見つめたら、ようやく口を開いた。
「――工場が、閉鎖するの」
確定したか。
「働き出して、しばらくした頃だったわ。業績が悪いから、工場を閉鎖するって。――城下町は地代も高いし、処分するのが1番だって」
「なぜ、隠していたんです?」
「ガイが結果を出してるのに、あたしは何もないから。それで、案を色々出したんだけど、うまいこといかなくて」
ふむ。やる気があるのはいいが。
「ほうれんそうを怠るのはいただけませんね」
「ホウレンソウ?」
「報告、連絡、相談のことです。――お互いの場所で何が起きているのか、何をしているのか。情報を共有しておくのは大切なことですよ」
「――ごめんなさい」
まあ、素直。
バレたとき、明らかにホッとしてたものな。
「お嬢様。トップが全てを知っている必要はございません。トップの役目は、知っている人に託すことと、その責任を持つことです。これが出来れば良いのですよ」
私はお嬢様の手を握った。
「先ほど、私が結果を出したとおっしゃいましたね? ありがとうございます。これは、お嬢様が私を信頼して、好きなように任せてくれた証。私の手柄は、お嬢様の度量の広さを表すものですよ」
「そ、そうなの? えへへ……」
照れてる所悪いが、これって、失敗したらその責任も取れよって事だからな。
「じゃあ、ガイに任命します」
お嬢様は私をおがんだ。
「助けて、お願い!」
「おおせのままに」
2人のやりとりを見て、ワンコがパチパチ拍手していた。
「感動的ですワン! 王女様とお付きの理想型ですワン!」
ほう、そうか。
「お嬢様、それではまず、提案がございます」
「なに、ガイ?」
「明日から、私とモーフィーの仕事をスイッチしましょう」
「ワフ!?」
「いいわね。それ、採用」
「ワワン!?」
やったね、ワンちゃん。苦労が増えるよ。
「拙者、カレーもエアロビも知らないですワン!」
「それはすでに断っておきました」
ここまでの展開は予想済みだ。
「剣術の稽古に出てください」
「いきなりですワン!?」
おう。だが事前に連絡してやったぞ。
お嬢様を、ちゃんと諫めなかったバツだ。