79話目 ステキなプレゼント
エアロビの店から、他に要望として出ていたのは、「レッスンのない時でも通えるようにして欲しい」というものだった。
ふむ、大部屋はいつも道場として使っているが、他の部屋なら余裕がある。マダムの側からやる気になってくれたものを、みすみす逃す手はない。
それに、時間外でも通えるようにするのは、将来的な目標でもあった。必要とされたら、前倒しで投入するのもアリだろう。
私は会議で、とある機械の導入を提案した。
「こんな装置なのですが、いくらぐらい掛かりそうですかね」
「仕組み自体は簡単そうなので、動かすためのエネルギーキューブ次第ですね」
キツネのラファエルさんに、クマのベアトリスさんが懸念を示した。
「ワタシはむしろ、そんな安い装置でお金持ちの方が怒らないか、そちらが心配なのですが……」
それは問題ない。前世でも、100円ショップが好きなセレブはいっぱいいた。
カレーも、安いけど絶品である。
真に良いものは、値段に左右されないのだよ。
というわけで、許可を得た私は、残念なロリのいる工房へと足を運んだのだった。
「待ってただわさ~」
ヤバいな。あるてぃすと・ロザンネに、すごく好かれている。
私は、次に作ってほしい機械の説明を行った。
「キャー! ヘンな装置キター!!」
ええ……ヘンって認定、低すぎ……?
ただのルームランナーなのだがな。
「ヘンだわさ! 歩くだの走るだの、外でフツーに出来るだわさ! なんでわざわざその場でやるだわさ?」
うーむ、言われてみれば確かにそうなんだが。
ドワーフの匠たちも笑う。
「おぅ、ニィちゃん。雨の日に濡れずに歩く装置かい?」
「ワシらみてぇに、ハンマー握って炎と格闘すりゃあ、イヤでも鍛えられるさ」
ガハハと笑われた。
ドワーフには思いつかないだろうな。みんながマッチョだから、ヤセようって発想がそもそも出まい。
そういう鍛治仕事は、セレブにはキツ過ぎるのだよ。
かくして、ルームランナーを3台設置した。
すぐさまセレブの目に留まる。
「あら、コレ面白そうね」
「ぜひお試し下さい。前にあるスイッチで、速度を上げ下げ出来ます。速すぎると感じられましたら、手すりを持って、中央のベルトから足を離して下さい」
「分かったわ」
連れだってやってくるセレブは多い。しかし、最適なスピードは人それぞれだったりする。
並んでおしゃべりしながら、別々のペースで歩くのにはうってつけなのだ。
セレブの間で、さっそく話題になっていた。この世界ではここだけという特別感がウケたらしい。
道場の剣士たちにも、一定のペースで走れると好評で、良いプレゼントになったようだ。
「――という感じです、お嬢様」
いつものように互いの出来事を話していたのだが、スラヴェナお嬢様は少し考え事をしているようだった。
「お嬢様?」
「え? ああ、大丈夫よ。聞いてたわ」
お嬢様は何度もうなずいた。
「だけど、ガイ? あんまり良くないウワサも聞くんだけど」
「おや」
なんだろうな。
「拙者も聞いたですワン。マッチポンプというウワサを」
モーフィーが、ハスキーな小声で話した。
「マルヨレイン様の所で美味しいカレーやケーキをたらふく食べさせて、犬人派のダイエット店も利用させるとか……。自作自演とか言われてますワン」
ふむふむ。
「予定通りです」
「ええっ? ちょっ、ちょっとガイ。流石に強がりでしょ」
「いいえ。――もしその悪評が流れないようなら、私が流しました」
「なにソレ、怖っ!」
お前な、無策でマルちゃん陣営を肥え太らせて、どうする気だ。
「それよりお嬢様? エルフの方たちとの関係は良好ですか?」
「大丈夫! あたし、人を惹きつける力はスゴイから!」
あー、うん。それ言ったの私だがな。
お嬢様の場合、勢いにノせたらどこまでも行けそうだから、良いスパイラルの時は放っておこう。
「ワン。王女様、外はもう真っ暗ですワン」
モーフィーが窓の外を見た。
「最近、すぐに暗くなるですワン。明日のミーケ王女様の誕生日パーティー、本人が寝ちゃうかもですワン」
「もう、モフモフったら」
やめてやれ、面白すぎるだろ。
「でも、ミーケがあんなに慕ってくれるようになるなんて……」
「お嬢様に恐れをなしたんでしょう」
「――うん」
ん? いま、少し間があったな。
「王女様は、工場のお仕事でお疲れですワン。今日はしっかり休んで、明日の誕生日に備えるですワン」
「うん。モフモフ、ありがとう」
ふむ、慣れない仕事は疲労も溜まりやすいからな。
「あ」
「ん? ガイ、どうしたの?」
「誕生日プレゼントを、忘れておりました」
ま、いっか。ミーケだし。