75話目 不可能を可能にする骨
「ガイさん。この道具は、なんだとですか……?」
「魔法の一部です」
私はスケさんを引き連れ、城内にあてがわれた部屋へと戻ってきた。
スケさんは入り口でチェックされたのち、首からタグをぶら下げている。
この道具を試すには助っ人がいるため、お嬢様に手伝ってもらおうかとも思っていたのだが、今はエルフの工場で忙しい。そこで、スケさんの登板とあいなったのだ。
「ボクも、可能な限り頑張るとです……」
「お願いします」
私は、スケさんとじっくり打ち合わせをした。
翌日。
「やあ、子供たち。元気かなー」
「はーい!」
「元気だねー、お兄さんウレシイよー」
たくさんの犬人派の子供たちを前に、私はふたたび燕尾服を着ていた。
「さ~て、お立ち会い。ここに取り出しましたるは、横じまのハンカチ。ね? いっさい魔力はかかってないよー?」
ちょっとスレた子供が、【魔力視覚】などを使って近くの子供に「本当にないワン」と言っている。――好都合だ。
「さて、お兄さんが手で筒を作って、ハンカチをこの中に押し込むと……ハイ! なんと縦じまに!!」
子供たちの間から、「うおお」とか「すげー」とか言った歓声が聞こえる。
ハンカチを服のポケットに仕舞ったその手で、今度はスポンジ状の玉を握りしめておき、「む~」と力を込める。
「はい!」
勢いよく手を広げると、玉が出現。そこでまたどよめきが。
ふはははは、絶好調である。
みかんに親指を刺して宙に浮かせたり、カードを1枚引かせて「剣の3」と当てたり。これは、事前にカードセットを52組買えばカンタンだな。
ちなみに、何をやればウケるのかは、事前にお嬢様とモーフィーの前で披露して調査済みだ。
見られたら困るアングルには決して来させないよう、庭にはブルーシートを敷いておいた。シートの前でみんなを呼べば、自然とそこに座るよう誘導できるという仕組みである。
こんなガキたちをウロチョロさせたら、タネがいくつあっても足りないからな。位置の固定は必須といえよう。
子供の1人が手を挙げた。
「ねえねえ、ガイお兄さん」
「んー、なんだい?」
「さっきから、もう1人の骨さんは何もしないんだけど、なんでー?」
おやおや。助手というのは立派な仕事なのだが、子供にはチト難しかったか。
ちょうどいい。紹介しておこう、私のパートナーを!
「スケさん、アレの準備を」
「分かったとです」
スケさんは、円筒形の厚紙を持ってきた。紙はホワイトをベースにしており、赤ペンで矢印が書いてある。
私は、スケさんにその筒をスポッと被せた。顔の部分だけくり抜いてあり、子供たちにはスケさんの頭蓋骨が見えているハズだ。
「今から、スケさんの特技をお見せします。なんと、スケさんの頭が回ります!」
「えー」
「ウッソだー」
本当に素直な反応だな。
私は、反時計回りにゆっくりと筒を回し始めた。すると、スケさんの顔も回っていく。
すぐに、厚紙で顔は見えなくなった。再び見える場所に来ると、スケさんの顔が大きく右方向を向いている。
「うわーっ!」
ゆっくりと回していくにつれ、スケさんの顔も正面を向き、そして左後ろへと回っていく。そしてまた厚紙が遮る。
再び見える場所に来ると、またスケさんの顔は右後ろから、ゆっくり正面へ。
「ワワン!?」
「おー!」
「すげー!」
「2回、2回ねじれたワン!」
いやはや、なんでも引っかかるなあ。楽しくなってきた。
スレた子も、ゴクリとツバを呑み込んでいる。
「ワン……! これは、高度な魔法だワン。きっと、ボクらには探知できないほどの【幻覚】だワン……!」
困ったときは【幻覚】。スレてそうで、とても素直な子だな。お兄さんウレシイよ。
かくして、獣人の子供たちを相手にした手品興行は大成功に終わった。
「スゴいとです、ガイさん……。あれだけの子供たちに囲まれて、噛まれなかったのは初めてとです……」
そりゃあ生傷絶えなかっただろ。
「スケさん。これからは、フリスビーと手品の技を生かしてみてください。たちまち人気者になれますよ」
「ありがとうです、ガイさん!」
いくつか進呈したことで、スケさんには大いに感謝されたが、なに、このぐらいどうという事はない。
なんたって私は、不可能を可能にする骨だからな。