74話目 月は出ているよ?
黒い3匹の名前は、ガー君、マー君、オー君というそうだ。
逆から読むとオーマイガーか。狼だけに「おお、神よ」か? ハハッ。
「あっ、ガイさん! また来たとですか!?」
骨仲間のスケルツォさんだ。3匹のお世話役というか噛まれ役で、元々は魚人の骨だったらしい。
「噛まれるダケだとです! ボクは噛まれる回数が減って嬉しいとですが、ザコの骨はこうなる運命です! 早く逃げるとです!」
ビミョーに優しいな、スケさんは。
しかし、もう大丈夫だ。噛まれなければ、どうということはない。
私はポケットの中から木の円盤を出した。
残念ロリが作ってくれたフリスビーである。垂直にして、3匹にも表面をとっくりと見せてやる。
ほら、とても美しい出来映えだろう? まるでお月様みたいに。
「すげー」
「うわー」
「キレー……」
うむ、何せ愛してるとまで言われたからな。「月が綺麗ですね」というやつだ。
私はフリスビーを水平に戻すと、手首のスナップを利かせて投げた。3匹は我先にと駆けだしていく。
「とるー!」
ガー君が、ジャンプしようと屈伸したが、そこをマー君が踏みつけてフリスビーをキャッチ。
「オ、オレを、踏み台にしたぁ……?」
悲しいけど、これって争奪戦だからな。
しかし安心しろ。月はいつもここにある。
ポケットの中から、次々と戦争の火種を取り出し、ヒュンヒュン投げてやった。
ははは……。そーら、フリスビーファイト、レディ・ゴー!
3匹はどんどんキャッチして届けに来る。そしてまたフリスビーをスローイング。
結局私は、3分で延べ12人を片付けた。
「俺、また踏まれたぁ……」
2度も踏まれたね、ガー君。おそらく爺に踏まれたこともないだろうに。なぜだと思う?
坊やだからさ。
「ああ……ガイさん、スゴいとです……」
「スケさん。これでもう、噛まれることはないですよ?」
ザコとは違うのだよ、ザコとは。
私はスケさんにフリスビーの投げ方を伝授すると、バウバウ爺さんの元へと向かった。
「な、なん……じゃと……? わ、分かった。犬人派を集めて審議しよう」
オーケィ、実にグゥレイトだ。
これでダイエット店の企画が進められるだろう。
そして、会議の結果。
「ふぉっふぉふぉ、ダメじゃった」
オーケィ、お前を殺す。
と言いたい所だが。暴力は……いけない……。
「バウディスタさん、なぜでしょうか。きちんと面倒を見ましたよ?」
「犬人派の子供は多くてのお。ワシの孫だけ見てもらうのは不公平じゃと言い出しおったんじゃ。そやつら全員の面倒を見てくれれば、ワシらでダイエットの店をやろう!」
ええ……。ウソだと言ってよ、バウバウ。
「バウティスタさん。今度こそ大丈夫ですね?」
「ふぉっふぉっ。出来たら無条件で店をやってやるわい!」
吠えたな、雷ジジイ。
これは、元から断る気だったのか。予想に反して私がうまくやったから、今度は犬人派の会議を持ってきて、さらに無理難題をふっかけてきたと。
しかし、だとしたら、砂糖を3杯入れたコーヒーより甘い。
――私の辞書に、不可能の文字はないぞ?




