73話目 骨まで愛して
私は城に戻って、いつものようにお嬢様&ハスキーと情報交換した。
「ガイ、こっちは工場のエルフさんたちと打ち解けたわよ」
「拙者もラインに入って作業しているだワン」
ふむふむ、馴染んでいるようで何よりだ。
「私の方は、マルヨレイン様と契約を2つ結びました」
カレーとダイエット店について、ざっくりと伝えた。
「ガイ。マルヨレイン様は順調っぽいけど、そのせいで犬人派のバウティスタ様がヘソ曲げちゃってるわね。そうなると、あのお爺ちゃん、ガミガミうるさいわよ?」
「そのようですね」
カレーの披露パーティーのときも、ウンピョウ、サーバル、トラ、ライオン……と、見事にネコ科ばかりだったからな。
名実ともに雷親父だったバウバウは、犬派トップの立場としても譲るわけにはいかんか。
「ただ、私の印象ですが、バウティスタ様はとてもお孫さんを溺愛されておりましたね。ですから、彼らに好かれれば、態度は一変するでしょう」
「でも、今のままだと、ガイの好かれ方ってカジられてるダケよ?」
そうだな。
お嬢様はハスキーの尻尾をモフっていた。
「ねえ、モフモフ。あなたも狼人よね?」
「はいですワン」
「ガイをカジりたいとか思ってる?」
「いえいえ、ガイ殿は人でございますよ? それは暴行傷害になりますワン」
「じゃあ、そういう法律がなかったら?」
ハスキーがチラチラと私を見た。
「と……とても魅力的ですワン」
まぁ嬉しい。ハダカの体を見せつけて、女性をトリコにしてしまったよ。罪な骨だな。
――虚しい。せいぜい骨まで愛してくれ。
「モーフィーさん。狼人として、私以上に興味を惹かれるモノはございますか?」
「そうですねぇ……あ、月が満ちているときなどは、ついつい空を見上げて遠吠えしたくなるですワン。これは多くの狼人に共通ですワン」
ふむ、満月を見ると狼男になるという伝説もあったな。丸いものなら骨より食いつくだろうか。
私は、手近にあった丸い物として、トレイをサッと見せた。
「ワン!」
おや。
「あ、し、失礼……」
「モフモフ~? 月じゃなくても、丸ければ良かったの~?」
「いえ……。えっと、ガイ殿がテクニシャンで、つい……」
私かい。意外な才能があったんだな。
その後も色々と試してみた結果、ボールではダメだった。円形のものでも、ある程度の大きさが必要らしい。
――なるほど。つまり、お皿のようなモノならOKか……。
「ん? ガイ、その顔は、何か思いついたのね?」
「はい。お二方のおかげです」
昔やっていた遊びを思い出した。
「どなたか、加工してくれる人が必要ですね」
「あ、それなら丁度いい人知ってるわよ。今日、キューブを配達したときに会った若いドワーフさん」
ほお。
「刀剣や鎧とかを作ってる工房にいたんだけど、なんか、『あるてぃすと』とか言うの? 妙ちくりんなモノを作りたいんだって。そういう依頼があれば真っ先に引き受けたいのに、来ないって嘆いてたわ」
ほほお。
「お嬢様」
「なあに」
「私の作るモノが、妙ちくりんだと思ってるんですね?」
「ええ」
清々しい肯定だな、おい。
そこまでヘンなものじゃないんだが。
「ヘンなモノの依頼、キター!!」
うるさいよ、ロリドワーフ。
というか、ドワーフで工房勤めというだけで、勝手に男と思っていた。
「私の依頼はヘンではないですよ。単に、木を円形にカットして、少し凹みと丸みをつけるだけで……」
「いやいや、十分ヘンだわさ」
ぷいぷいと手を振られたのち、肋骨をペチペチ叩かれた。
「ふっふっふ、久々のヘンな依頼……。ウチのウデが、ワキワキ鳴るわさ……」
まあ、やる気になってくれているので良しとしよう。
ちなみに、ワキワキだかウキウキだか鳴るウデはしっかりしていたようで、指定のものをいくつも作ってくれた。
「ヘンなモノをまた作りたくなったら、『あるてぃすと・ロザンネ』に頼むといいだわさ!」
分かった。「ロリ・残念」、略して「ロザンネ」だな。
「ロザンネさんには、これからたびたび頼むかもしれません。そのさいは、よろしくお願いします」
「本当に!? ウチは嬉しいだわさ! スケルトン、愛してるだわさ~!」
抱きついてスリスリしてくれた。
ええ……、モテ期到来……?
――違うな、これは明らかに違う。
さて、3匹へのリターンマッチと行こうかね。