72話目 3匹がKILL
「ダメじゃ!」
私は、犬派トップの狼ジジイ、バウティスタに雷を落とされた。
――いや、比喩でなく、じっさいに【落雷】を使われた。カワしたがね。
「なんじゃ、あのデブマルめが! サイロンから輿入れして来おったと思ったら、すぐに我が物顔で威張りちらしおって! おまけに、体もブクブクと太っておる! まったくタルんどるわ!」
ヤセてたことあったのか、マルちゃん。
「産後太りとかヌカしおったが、程があるじゃろ! そのせいで、獣人全体がいい加減に思われてメイワクしとるわ!」
バウバウ吠えてるな、このジジイ。
「ですが、バウティスタさん。このダイエットする店という案は、スラヴェナ王女様もヤセさせた実績がございますよ?」
「ヘンッ! デブマルから回ってきた話じゃろ? オイシイものは自分でやって、うま味のない骨だけをワシら犬派に寄越すんじゃ。バカにするなと言いに戻れ!」
けんもほろろ。とりつく島もない。
「バウティスタさん、まずはお話だけでも聞いていただけませんか」
「あー、ムダじゃムダじゃ! ――いや待て? そうか、お主……」
バウバウじじいが、ニィッと笑った。
「ワシの可愛い孫達の相手をしてくれたら、聞いてやっても良いぞ?」
やなこった。
と思いながらも引き受けてしまった。
ジジイに案内された先の庭では、3匹の子供狼にガシガシと全身をカジられているスケルトンの姿が。
「ああ~! お坊ちゃまたち、やめるとです~!」
「ヤダー」
「カジるー」
「オイしー」
――ナゼだろう、猛烈にイヤな予感しかしない。
「ふぉっふぉっふぉっ、いやー、じつに元気じゃのお」
「あー」
「じいじだ」
「じいじー」
3匹の黒い子供狼は、にこやかなジジイに甘えていた。ここだけ見ると、とても幸せそうな爺と孫達の図だな。
「今度はのお、このお兄さんがお前たちの相手をしてくれるぞ?」
「えー?」
「本当ー?」
「やったー!」
えー、ウソー、ヤッダー。
すぐに3匹が勢いよく飛びかかってきたので回避する。
右腕、左脚、右脚。うむ、ガッチリ噛まれた。
「ふぉっふぉっふぉっ。孫が満足したら聞いてやるわい。ではのお」
ジジイ退場。
ガシガシガシガシ。
「やめて下さいませ」
私は腹からボールを取り出したが、骨の方が食いつきがいいようだ。
「ああ~、骨のお仲間さん……。ボクはホッとしてるとです……。ごめんなさいとです……!」
さっきまでカジられてた人に感謝されたよ。まあ、生け贄が増えたもんな。嬉しいよな。
私は骨を分離させはしなかった。コイツラのことだ、絶対くわえたまま走り回る。賭けてもいい。
なので、しばらくカジらせておくことにした。
ようやく今日の分は飽きたらしい。3匹が離れたので、ジジイに報告に行く。
「バウティスタさん。それでダイエットの店についてですが」
「ダメじゃ」
フザけるなよ、お前。
「一応聞きますが、なぜでしょう」
「孫が満足しとらん。明日、明後日と、満足するまで頼むぞい」
オーケィ、ヒゲジジイ。
私がキッチリ満足させてやるよ。