71話目 面倒ごとは押し付けましょう
翌日からのマルヨレイン様は、実に聞き分けが良くなっていた。
「オーホホホ! ね~え、ガイギャックスちゃ~ん? アタクシに、その不思議な料理のレシピと独占販売権を売って欲しいザ〜マス! お金はこのぐらい支払うザ〜マスよ?」
おっと、なかなかの額を提示された。ここで居丈高にくるようなら、山ほど溜め込んだ香辛料を少しずつ売りつけるという手に出るところだったが、キチンと取引するならフェアーにいこう。
「ガイで良いですよ、マルヨレイン様」
「そうザマスか。では、ガイちゃん。答えはどうザマス?」
「分かりました。どのくらいの人に食べてもらえたのかを知りたいので、一皿販売するごとに3%という契約でならお受けいたします」
「安い! 決まりザマス! では、法律士に頼んで、さっそく契約を結ぶザマス!」
どこからどう見てもロイヤリティーである。本当にありがとうございました。
ちなみに、自分でカレー屋を開くのが一番稼げるかというと、そうでもない。美味い料理を作れるウデと、店を切り盛りするウデはまた別だからだ。
ヘタに流行れば、スパイスをスパイする輩も出てくるだろうし、店への圧力などもありうる。「香辛料を止められたらオシマイ」という脆弱さもキツい。
何より、私はお嬢様のお付きなのだ。店にずっと出ているわけにはいかないのである。
そこで、カレーを教えることでWINーWINの関係を作った。マルちゃんは、お腹が苦しくてもスプーンが止まらなかったから、カレーのポテンシャルにバッチリ気付いただろう。――世界を獲れると。
本来、3%は破格だな。しかし、価値を認めてくれた相手には、こちらも敬意を払おう。何より私が食べたいからな。香辛料に出会えたラッキーを祝して、ラッキーナンバーといこうじゃないか。
続いて、今度はやせるプログラムについてだ。
「マルヨレイン様、始めにお断りしておきますが、ダイエットの進み具合は人それぞれです」
「そうザマスか」
「はい。スラヴェナ王女様は、スライム族ということもあって、良くも悪くも影響が出やすかったですからね。なので、焦ってはいけません。太った時間の分、ヤセるにも時間がかかるとお考え下さい」
そしてウォーキングから始めた。
「こんな事でいいザマスか? 楽勝ザマス!」
おいおい、どうせフラグなんだろ。
「あー、疲れたザマス! 一歩も動けないザマス!」
早いなー、回収が。 フラグの回収速度なら負けてないぞ、うん。
「マルヨレイン様? この先の高級店街に、アイスがございましたよ?」
「行くザマス!」
ずんずん歩くデブ黒猫。はっはは、本当に期待を裏切らんな、マルちゃんは。
「そうそう、マルヨレイン様」
アイスをペロペロなめるマルちゃんに、何気なく切り出した。
「ダイエットをさせるお店などはいかがでしょう?」
「はあ? ヤセる方法にお金を取るザマスか? こう言ってはなんザマスが、太っているのは富の象徴でもあるザマス。庶民はむしろ、飢えをしのぐ方が重要ザマス」
一理ある。人類は飢餓との戦いだったからな。太ってる人間が出てきた期間など、歴史的には圧倒的にごくわずかだ。
「それよりも、カレーと言ったザマスか? 庶民でも手が届くぐらいの価格で、ガッポリ荒稼ぎザマス〜!」
「では、このダイエットの店は……」
「いらないザマス。個別にやせるプログラムならガイちゃんに聞くザマスからね。アタクシはカレーで当分忙しいザマス」
アイス食いながら言うあたり、スッゴく忙しいんだな。
「道具などを使うという手も……」
「なくてもヤセるザマショ? そんな面倒なものは、犬のエサにしてやるザマス」
「はあ、つまり犬人たちにやらせようと?」
「そうザマス。まったく、猫人たちの多い派閥に、お情けで参加させてるザマスのに、キャンキャンうるさいザマスからね。こういう、手間が掛かってカネにならないものを任せるザマス」
ヒドい言い草だな。だが、丁度いい。
私は、先ほどのついでだからと、書面にして契約を申し出た。マルちゃんにはすぐにお金を支払っておく。
「あらまぁ。少し考えを述べただけザマスのに、お金までもらっていいザマスか?」
「こういう事はキチンとしといた方がよろしいのですよ。些細であってもね」
契約書……いい響きである。
私は、【完全命名】だかいう魔法処理で正式に取り交わした契約書2枚をくるくる巻いて、大切にお腹のポケットにしまうと、今度は犬人派のトップに会いに行った。