7話目 食いしん坊バンザイ
カギの束を使って牢屋を開けた。
これで無事におデブスライムも出られることだろう。
「で~ら~れ~な~い~」
――おいおい。
ヨコ60cm、タテ200cmの格子が開いたんだがな。柔軟性が足りなさすぎる。
「そもそも、よく入りましたね」
「ゴブリンたちが押しまくったのよ!」
めちゃくちゃ苦労したんだな、ゴブリンども。挙げ句に死ぬとは。合掌。
ズリズリと鉄格子のゲートと格闘することしばし。なんとかお嬢様は外に出られた。
「はあ、良かったわ」
お嬢様は、さっき砕かれた私の親指に、うにょ~んと義肢を伸ばした。
「おや、食べるつもりですか? 私の骨を」
「違うわよ!」
だろうな。食う気なら、ここには食料が6つも転がってる。
「ゴブリンだって食べないからね!」
おっと、思考を読まれた。なんらかの魔法か?
試してみよう。――や~い、デブスライム~、ばーかばーか。そんなだから、ガバガバの牢屋からも出られないんだよー、わ~い、超デブー。
――ふむ、怒らない。偶然か。
「お嬢様? ゴブリンも、肉ですよ」
「あたしは貴族なの。食べるお肉は選ぶのよ!」
「絶対ですか?」
「えっと……その、非常時以外」
なんだか妙に震えている。ソワソワしているらしい。
ああ、これはアレか。
食いたいのか。
食えるものが近くにあるのにガマンするとか、おデブにとっては拷問だもんな。分かるよ、よく分かる。
カギの束をじゃらつかせて、部屋の入り口にカチャカチャ向かった。
「あ、あなた、ドコ行くの?」
「私は、このカギをもって探索しますから、お嬢様は休んでいて下さい」
「え?」
「疲労されているでしょうからね。――ああ、これは独り言ですが、私が食事をする体であれば、体力を回復するためにも、少しは何か食べるでしょうね。携帯食1つとか。非常時ですから」
「――ありがと」
これで、2匹ぐらいは食うだろう。
先ほど探索してなかったエリアを調べると、いくつか扉が出てきた。適当にカギを試して開けると、武器庫、納戸、宝物庫……というより、ガラクタとしか呼べない部屋が続く。
立派なものなら使ってるだろうしな。ボスの装備よりいいものはないだろう。
背負い袋に、かぎ縄付きのロープや、たいまつに油など、色々つっこんでいく。
この体なら必要なさそうだが、何が役立つか分からんからな。【神聖武器】と【神聖防護】だって、もう少しボスが注意深ければ完封されていた。出来ることは多いほうがいい。
そうそう。1個、カギのかかってない扉もあり、そこはトイレだった。穴ほってやってるのか。さすがにスゴい匂いだ。すぐ閉める。
背負い袋を持って、部屋に戻る。今の体重が3kgだから、持てるんだろうかとちょっと不安に思ったが、フツーに持てている。体重ぐらいは突っ込んだハズだが。スゴいな、骸骨。
「戻ってきましたよ」
どれ、さっきは2匹と予想したが、やはり3匹食ってるかもな。そう思って部屋に入ると。
全てが骨になっていた。
「スライムさん?」
「いや……えっと、ゴブリンの肉ってね? マズかったんだけど、1匹食べたら、つい、もう1匹、もう1匹って……」
いや、まあ、分かるが。
まったく、食いしん坊にバンザイだ。
お手上げって意味でな。