68話目 プラス1
「それはまた……壮大な作戦ね」
ムリと言わなくなっただけ、成長したと思おう。
「でも、それなら、やっぱり城内で活動した方が良くない?」
「どのように?」
「あ〜……、そっか」
そう、結局うまい方法がない。
「それに、今のお嬢様は、『何か凄そう、怖そう』というイメージはつきましたが、実績はまだございません」
「たしかにね」
「最初のひとりが動けば、あとはなだれをうって鞍替えしてくれるでしょうが、それには実績が必要です」
「だから、エルフ会社に行くっていうの? でも、そこで働いてたのはセレーナお姉ちゃんも一緒でしょ? あたしが後追いしても……」
「お嬢様。私がずっと見てきて、ひとつ、確実に他の王女様方に勝っているものを見つけました」
「え、なに?」
「人懐っこさです」
同時に、重々しくうなずいてみせる。
「露店でのやりとりや、街で子供との交流など、陛下にも感じられた『人を惹きつける力』に、お嬢様は秀でておられます。話をすればするほど、親しくなる力がございますよ」
「え……あ、あたしに、そんな力が……?」
「はい。なので、お嬢様は交流を深めていって下さい。それだけで、『実はいい人なんだ』と分かりますし、『敵に怖く見せてるだけで、味方には優しいんだ』となるはずです」
「そ、そうなの? 信じられない……!」
ああ、私もだ。
人懐っこさでいくと、どの王女も似たようなものだろう。
ただ、交流を続けることで親しみを感じやすくなるのは事実だし、ギャップが大きい方が印象も強い。そうすると、悪役令嬢のお嬢様に分がある。いわゆる、「不良が子猫を助けると好感度大幅アップ」みたいなものだ。
「でも、たしかにお店の人って、あたしによくオマケをくれたわね……」
そりゃよく買ってるからだよ。
ま、自信がついたのでヨシとしよう。
「ではお嬢様、王様に話をお受けになるさい、ひとつお願いをして下さい」
ということで、犬人族の少女を雇い入れたのだった。
おっと、17才なので女性だな。この世界だと成人だ。
「あたしは第三王女のスラヴェナよ。あなた、名前は?」
「せ、拙者は、も、ももも、モーフィーと申します」
「モモモモモーフィー? 面白い名前ね」
「ち、違います!」
ハスキーな声だな。180近い身長に、しなやかな筋肉で銀髪オッドアイ。イメージは凛としたシベリアンハスキーだが、お嬢様にはタジタジのようで、今も、三角耳をやわやわ揉まれている。
「んー、なんか触り心地が抱き枕に似てるから、モフモフって愛称にするわ」
「あ、ありがとうございます」
お嬢様は、私を連れて少し離れた。
「討伐隊の一員だったらしいけど、知らないわよ?」
「ウデが立つので、遠征討伐の方に行っていたそうですよ」
むしろ、ドロテーの方が知ってるかもな。
モフモフなハスキーは、緊張しているのか直立不動だ。
「あの人、何かにおびえてるみたいね」
「お嬢様、そろそろ気付くべきです」
「あ、やっぱり?」
お嬢様はハスキーに向き直った。
「怖がらなくて大丈夫よ。あたしが牙を向けるのは敵にだけ。味方には優しいの」
その言葉を聞いて、ハスキーの耳とシッポは、明らかにへにょりとした。
「良かったですワン……」
「わん?」
「あ、犬人の方言です! 拙者、たまに方言が出てしまうので、なにとぞご容赦を」
「オッケーオッケー。むしろどんどん出しちゃっていいわよ」
それから雑談タイムにはいった。
「あら、じゃあモフモフも三女なの?」
「そうですワン。随分ヤンチャしましたけど、娘も三人目になると、親も慣れちゃって、『あんた好きになさい』ってなモンですワン」
「じゃあ、あたしの護衛を受けようと思ったのはどうして?」
「親が王女様の着付けを担当したとかで」
あー、口の固かった中年女中の娘か。なら、身元もバッチリだ。何より「3」女ってのがデカい。本採用な。
「あ、でもガイ? モフモフがそんなに優秀だと、やっぱり引き抜かれたりするんじゃ……」
「ですね」
なので、対策を考えている。
「お嬢様とモーフィーは、明日からエルフの会社に行って下さい」
「ガイは?」
「私は……マルヨレイン様の所に出向します」
「え?」
何を呆気に取られてるんだ。もし同じ行動を取るなら、護衛がいらんだろ。
「えっと……あたしに獣人の護衛がついて、ガイがマルヨレイン様の所に行ったら……」
「拙者、スラヴェナ王女様がミーケ王女様の軍門に下ったと見るですワン」
そうだな。それが狙いだ。
「お嬢様。獣人は城内にも数が多いので、隠れ蓑にはちょうど良いのですよ」
「え、そ、そりゃあ、チョッカイを出されることはなくなるけど……。それで他の派閥に入ったら、本末転倒じゃ……」
「あくまでカモフラージュです」
そう。
「真の目的は、犬人派の切り崩しですよ」
「え〜!!!」