67話目 それ以外全部
翌日のお食事会にて、早速パパから、「スラちゃんへの縁談話がいっぱい来てるよー」という打診があったが、お嬢様は、「当分ひかえておきますわ」と返していた。
国王パパは、仕事が早いな。いや、娘を思えばこそか。
どちらが幸せかは分からない。少し誘導も入れたが、最終的には判断を委ねた。
その結果、お嬢様はお人形さんを拒否した。
「そしたらね、パパ、『エルフさんの工場で働いてみないか』って」
ふむ。娘の社会科見学と、王族が目を掛けてますよというアピールか。
聞くと、エネルギーキューブの製造を手掛けている会社らしい。
城内の明かりから、調理の火力、シャワーの水など、様々な所にキューブは使われていて、こいつのおかげで文化的な暮らしが送れるとのことだ。なるほど、電気ガス水道プラスアルファみたいなものを一手に引き受けているのか。そりゃ重要だ。
城下町にあるので、実際に行ってみると、路地裏にあるキレイな工場だった。
チラリと中をのぞくと、灰色のキューブの山が所狭しと置いてあり、活気に満ちている感じがする。
「あ!」
作業長らしきエルフの男性が、お嬢様を見て会釈した。
「こ、今度はスラヴェナ王女様でございますか……」
おや、妙な言葉だな。
お嬢様も気になったらしい。
「あのお。今度は、とは?」
「実は以前、セレーナ王女様に働いてもらったことがございまして……」
ああ、社会科見学って毎年同じ所に行くもんな。
余談だが、ドロテーの場合は討伐隊への参加だったらしい。――それでいいのか、竜の王女よ。
「わ、我々一同……。だ、大歓迎でございます……」
とてもそうは思えない声の震え方だ。そんなにお嬢様が怖いのか。
お嬢様はニッコリ笑った。
「怖く……ないですよぉ?」
「ひえー!」
お前、絶対ワザとだろ。
「ワザとじゃないわよ! 怖がらせる気、全然なかったんだから!」
「じゃあ天性の女優ですね、おめでとうございます」
「んも~う、違うって!」
まあ、これについてはバイアスの効果も大きいか。
大会で、「ザ・デス」を正しく襲名したお嬢様は、その美貌も相まって、悪の総大将と思われているからな。
「ガイってば、あたしが『悪役っぽい演技する?』って聞いたら、そのままでいいとか言うし」
お前は素で十分に悪役令嬢だ。
「で、あたしはこの役目、引き受けたいんだけど」
「賛成です」
「意外ね。お城の派閥を切り崩すために、城内で活動するんだと思ってたわ」
「それは難度が高いでしょう」
すでに他の勢力に組み込まれている相手を、脅しつけでもする気か。1人にやっただけで破綻だよ。
「それぞれの陣営ですが、セレーナ様が魚人族、ドロテー様が竜人族、ミーケ様が獣人族を主に押さえてます」
「そうね」
「スライム族は、お嬢様1人です」
「分かった、スライム族を増やすのね?」
「違いますが、発想は近いです」
スライム族を雇用して数を揃えるとか、それは遠回りすぎるだろ。
「先ほど言った3種族を切り崩すのは大変です。ですが、それ以外の種族も働いておりますよね?」
「そうね。エルフやドワーフとか、数は少ないけどいるわ」
「我々が崩すのは、そこです」
「え、でも数が少ないって……」
「かき集めれば、どうですか?」
「――え?」
城内のマイナー種族も、どこかの派閥に加わっている。
しかし、それはメインとなる種族に影響を及ぼすほどではないから、単に「所属している」だけだ。
「お嬢様には、3種族以外の、全ての種族を取り込んでいただきます。これは、裸一貫からの出発であるお嬢様にしか出来ない作戦ですよ」