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私はコレでやせました(300kg→3kg) ~悪役令嬢、育成計画~  作者: ラボアジA
3章 魔道大会編

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64話目 悪役令嬢の誕生

 決勝2回戦も、見事に相手を干物にしたお嬢様は、堂々と戻ってきた。

 やはり私に小声で話す。


「あたし……自分のノリが怖い」


 私もだよ。いや、スタジアム中が「お前が怖い」と思ってるよ。


 2回戦の相手は、華麗な魚人だったハズだが、戦闘中はほとんど【透明】が効いてたものな。今や、干しカレイのイメージしか浮かばん。


「ははは、スラちゃ~ん? 粘土のゴーレムを一瞬で砂に! いや~、アレは格好良かったねえ~」


 引かない人がいたよ。魔王様だけはずっと笑顔で見てたよ。でも魔王様だしな。あの程度はカワイイもんだってことか?


「あの、お父様」

「お、セッちゃんも勝ち上がったね。いや~、パパ本格的に応援が困るな~、ははは」

「お父様。わたくし、戦い方について、少し確認をしたいのですが」

「うん、なんだい?」


 セレーナは真剣な顔で国王に訴えた。


「接触魔法については、絶好のタイミングを狙ったり、魔法で防がれたりしないよう、素早く杖を振るう必要がございます。勢い、叩いてしまうこともあるのですが」


 ――来たか。


「差し出口をお挟みいたします」


 私はカットインした。


「厳密には、セレーナ王女様のおっしゃる打撃も、魔法ではございません」

「そうね、セレーナ」


 おや、ブリさんもついた。


「接触魔法は、一回戦のスパルタコさんのようになさい」

「お母様、それでは、彼のように負けてしまいますわ」


 あー、コンビ打ちか。母親があえて反対することで、娘の思惑を通しやすくする、と。


「お父様? これは接触魔法のルール上、適切です。そもそも、この程度の打撃すらイヤならば、お互いを攻撃し合う形式ではなく、命中精度を比べたり、威力を競いあうだけで良いハズですわ」

「ふむ」


 裁判長の国王は、双方の主張を聞いた結果、判決を出した。


「原則は打撃禁止だね。だけど、必要性のある場合は、叩くのもやむを得ない。大会規則の通りだよ」

「ありがとうございます」


 セレーナはうやうやしく頭を下げた。

 私は、「んー」と唸ったあと、「陛下のおっしゃる通りです」と一礼した。

 横のお嬢様に小声で告げる。


「お嬢様、すみません。地獄です」

「――そう、ガイ。救いはないのね」


 お嬢様は、ただうつむき、手を握りしめていた。

 おそらく、相手がセレーナでなければ、魔王様のにらみガードは有効だっただろう。しかし、王女という立場が同等であれば、あとはルールを素直に読むことになる。


 つまり……お嬢様の地獄が確定した。




 準決勝第一試合は、「風」対「土」だった。両者ともに精度が高かったが、爺さんエルフが絶妙のタイミングで【石つぶて】を放ち、魚人女の【つむじ風】をツブした所で勝負ありとなった。

 まったく……基本魔法に毛が生えた程度の魔法だろうに、達人はスゴいな。


 さて、第二試合だが、一方的な試合展開だった。

 ひたすらお嬢様が殴られている。その光景だけを見れば、お嬢様に声援のひとつも起きそうなものだが、【排水】による死の宣告は強烈だったらしい。むしろ、魚人を中心に、「セレーナ様、頑張れー!」というコールが起きるほどだ。


 ――悪役ロールに加えて、【排水】はエグい醜態をスタジアム全員にさらすからな。


 セレーナは、それを避けようとして、一番うまく倒せる方法を考えた。その結果がタコ殴りだったわけだ。


 ボディや腕に山ほど叩き込んでいる。中には強烈なヒットもあるから、脳天に直撃したら集中が途切れるだろう。

 むろん、そこだけは愚直に守っているが、もうフラフラだ。




 という、




 セレーナよ、お前は罠にハマったのだ。

 敵のすることは全て否定しておけば良いという、安直な思考。大体の場合は合っているが、それを利用する相手にはコロッとやられる発想だ。


 お嬢様に地獄を味わわせる方法を選択したな? ありがとう、コイのぼり。

 お前の場合、本気で魔法合戦に来られた方がよほど怖かったよ。一回戦のタコより呪文速度は速かったからな。60秒あれば、1度くらい【中止呪文】の間をすり抜けたかもしれない。手動だから、少し間隔が開けばアウトだった。


 お嬢様……。私に出来るのはここまでだ。

 スマートな方法でなくてすまないね。今、お嬢様は地獄の苦しみだろう。

 だが、この60秒を耐えれば、セレーナに地獄を見せられる。


 魚人の王女は、明らかに焦っていた。


「はあっ、はあっ……倒れなさい! スラヴェナー!」


 渾身の一撃がお嬢様に決まった。その場に倒れそうになるが、お嬢様は演技派だ。決して集中は切らさない。


 むしろ、地獄が嬉しかったかもな。私がとっくに与えていたから。


 そら、無慈悲に60秒が過ぎ去っていくぞ?


「イ、イヤ……」


 今さら泣くんじゃないよ。そんだけボコスカ殴っといて。


 お嬢様は、凄みのある笑みを見せつつセレーナに抱きついた。




「は・い・す・い♪」




 勝負はつき、2つのものが出来上がった。

 1つは、ハマチの干物。

 もう1つは――恐怖の悪役令嬢。

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