61話目 言葉の魔術師
クジを引き終えたので、お嬢様と合流し、まずは魔力を回復してもらおうと救護室に向かった。
部屋の寝台には、デブ黒猫が横たわっている。
「ニャ!? お母様が倒れてるニャ!」
「あー、大丈夫ですよー、ミーケ王女様ー」
他のスタッフがやんわりと伝えた。
「先ほどの試合結果で、ちょっとエキサイティングしちゃったみたいで」
ふむ。おおかた、「うちのミーケちゃん」を勝たせようとしてたのに、まさかの敗北を喫してしまったので卒倒したか。ざまぁ。
「んが……?」
お、復活だ。
「へ……変な夢だったザマス。うちのミーケちゃんが、負けた夢だったザマス……」
はいはい。
ところがどっこい、現実ザマス。
「お母様、負けてごめんなさいニャ」
「あー、そうザマス! ミーケちゃんが負けたザマス! だらしないザマス! でも一番許せないのはデブスライムの王女ザマス!」
お前が言うな、40貫。
「あのお、マルヨレイン様」
お嬢様が話しかけた。
「あたし、次の戦いに向けて、魔力を回復してもらいたいのですが……」
「はー、甘いザマス! うちのミーケちゃんを卑怯なワザで負かして、それで救護班の援助をもらおうとするなんて、パンケーキの蜂蜜より甘いザマス!」
とんでもない私物化だな。
さっきのスタッフを捕まえた。
「魔力の補充は認められてますよね?」
「はい。ですが、こうなると……」
そして40貫をチラリ。
「ねえ、ガイ。嫌われてるし、ムリよ」
「うにゃ……お姉ちゃん、ごめんニャ」
「いいのよ。ミーケが謝ることじゃないわ」
ミーケが本当にしおらしくなったな。お嬢様も受け入れてるし、この関係改善はよしとしよう。
「大丈夫よ、ガイ。ヨソで魔力を回復すればいいの」
むう。一見いい案だが、この40貫も権力者の1人なのが厄介だ。
このタイプは、無視するとトコトン反発するからな。こじれることなく、この場で収めよう。
「マルヨレイン様、お耳を」
「なんザマス!」
私はデブ黒猫に耳打ちした。
「ガイコツ、うるさいザマス……え? そ、そうなのザマスか? ――わ、分かったザマス。ス、スライムの魔力を、回復するザマス」
あまりの豹変ぶりに、お嬢様もミーケも呆気に取られていた。
「ガイ……あなた、何を言ったの?」
「他愛ない言葉です」
マルちゃんは、【魔力譲渡】を施す間も、お嬢様の体に興味しんしんのようで、二の腕やお腹に目をやるたびに「はぁ~」と感嘆の息を漏らしていた。
魔力をフルチャージしたお嬢様と、すっかりマスコットのようになったミーケとともに王族関係者の席へと戻ると、ちょうど国王が、舞台中央でアナウンスを行なっていた。
『あー、魔道大会に参加してくれたみんなへ。最近、接触魔法にかこつけて、不必要な打撃攻撃が横行している。【巨大な盾】を壊すため、はたまた接触を振り払うためなどの例外はあるが、あくまでもこれは魔道大会だ。武器や素手での攻撃は、極力控えてもらいたい』
国王陛下のありがたいお言葉だ。みんな、守れよ。
「これって、ガイが頼んだの……?」
「大事をとりました」
おそらく、言わずとも作戦は機能しただろうがな。お嬢様自身が意識する効果は大きいと踏んだ。
「ガイ……あたし、魔力がスゴくあるって分かって頑張ったけど……あなたの方が、よっぽど魔術師だと思うわ……」
それは褒めてるんだよな、お嬢様?
上流階級の人々と接する機会が多いと、なんでも皮肉に聞こえてきて困る。