6話目 指先1つでKO
「ギギッ!?」
この回避方法は予想外だったらしい。ゴブリンどもの振ったショートソードが、鉄格子に当たって次々と折れた。
ふむ、安物だな。
「リセット」
私は、牢屋の中でガイコツの体を再構築した。
ゴブリンどもは、目の前でギャイギャイわめいている。
――フツーの奴が5体で、後ろにボスが1体か。
「さて、このままではニラみあいだが」
もちろん、そのつもりはない。
私は、左手を構成する骨をバラバラにした。――おっと、右手も肉が無いからすぼめないとな。はい、じゃらじゃら~っと。
「ほれ、鬼は外だ」
と言っても、直接ブツけたりはしない。奴らの後方に、満遍なくバラまくだけだ。
右手側は、ぐるぐる振り回して、肘から先を切り離すと、これまたゴブリンどもの後ろにブチまけてやる。
さて、運試しだな。
「リセット」
次の瞬間。
ゴブリンどもの体に、高速の骨の弾が乱れ飛んだ。
さっき、私に骨の群れが戻ろうとするとき、かなり速かったからな。
こういう事も出来るんじゃないかと、やってみたんだ。
結果は予想以上。
ゴブリンどもは、阿鼻叫喚ののち半分が倒れた。
ほお、3体も倒せたか。ラッキーナンバーだな、ツイてる。
私は改めてリセットを行い、背中にえぐりこむように入っていた指の骨をキレイに回収した。
この技は使えるな。指の弾……指弾と名付けよう。
「ちょっと、このゴブリンが!」
スライムお嬢様の声に振り向くと、1体のゴブリンが、鉄格子のスキマから入ろうとしていた。剣は抜いていなかったことから、後方にいた奴だろう。
今の私の技を見て、短期決戦をせねばヤバいと判断したらしい。たしかに、私も驚く威力だった。
だが残念。
すぐさま距離をつめ、醜悪な顔の下に指をバラまく。
――まるで、にじり口だな。入る最中は無防備だ。
「リセット」
あと2体。
ボスでない方のゴブリンは、腰が抜けたらしい。四つん這いのまま、逃げようとする。
「甘い」
入り口に指をブン投げて、リセットで倒す。
「ボス、あとはお前だけだ」
しかしボスは、不敵な笑みを浮かべた。いつの間にか、武器も鎧も白く光っている。
「あっ!」
スライムが叫んだ。
「【神聖武器】と【神聖防護】よ!」
「――なんです、それは?」
「対アンデッドに効果がある魔法! アンタ、マズいわ!!」
「へぇ」
試しに指弾を使うが、淡い光に当たるや、ぽとりと落ちる。
すかさず、指のかけらを剣でつつかれ、ガツンと砕かれた。リセットをしても、その骨だけは戻らない。
ちっ、左手親指の先端か。
この代償は、高くつくぞ。
「ゲヘヘ……ギギェ~」
邪悪な笑みを湛えたボスは、頭をツンツンしてみせる。
ふむ。「お前が何をしようが、ムダなんだよ。俺の方が賢いからな」って所か。
こういう態度は、言葉が通じなくても分かるもんだな。
カギ束から、大きなカギを握りしめて、ゆったりと近寄ってくる。絶体絶命だ。
「――なんて、ビビるとでも思ってるんですか?」
私は、鍵穴まで近づくと、コツコツと叩いてみせた。
「ここですよ、ココ」
「ギッ?」
「たしかに、たしかに。開けたら、あなたの勝ちです」
ゆっくりと、鍵穴をなで回す。
「けれども、ゴブリンとは愚かな生き物だそうですねぇ~? こ~んな大きな鍵穴だろうと、『カギを入れて回す』なんて難しいコト……ふふっ、出来るのですかね~ぇ?」
バカにされたことは分かったらしい。
猛烈な勢いで迫ってくると、カギをガチャガチャ開けようとする。
「アンタ、バカ!? なに挑発してんのよ!?」
「いいんですよ。どーせ開いたらオシマイです」
「オシマイって……あら?」
お嬢様も気付いたらしい。
いつまで経っても、開かないことに。
「ギェ? ギェギェー!?」
ボスは、何度もデカいカギを調べていた。「なんでだよ、このカギだろ!?」って所か。
「夢中になってますねぇ」
まあ、私の攻撃を食らわないからこそだろうが。
「大チョンボでしたね」
ボスを、ゴブリンのショートソードで刺した。
断末魔の叫びを上げて絶命する。
「運んできて下さり、ありがとうございます。お嬢様」
「どういたしまして」
先ほど、牢屋に入ろうとしたゴブリン。その剣を、こっそりと渡してもらったのだ。
ボスの白い光が消えたのを確認してから、鍵穴に小指をつっこむ。
「リセット」
カシィーン!
指先の骨を無事回収。
「私の勝ちです」