58話目 綺麗なお姉さんがネコダマシ
魔道大会当日は、昨日と同じく天気に恵まれた。
お嬢様とスタジアムへ向かう途中、魚人の魔道衛兵2人に追い抜かれる。
『スラヴェナ様って、やっぱドレスの下に贅肉押し込んでたんだろー?』
『おうとも。だから今日も、だぼだぼの服着てくるぜー』
半分正解だ。――と、お嬢様が行ったな。
「衛兵さん、おはようございます」
お嬢様の出で立ちは、体のラインが出た、黒のライダースーツだった。もちろん、足はほっそりとしている。
「警備、ご苦労様です。今日は、よろしくお願いしますね」
「は……はい!」
ニッコリ会釈すると、奴らは慌ててスタジアムへと去っていく。
『おい、どこにも隠す場所ないじゃないかよ!』
『え、えぇ~?』
『むしろエロい! 尻から脚のラインがそそる!』
『あれ~、おっかしいな~……? でも、胸がデカいな~……』
本当、男って単純だよな。
エキシビションは、4戦が予定されていた。
最初はセレーナ。去年のジュニア魔道学校のトップと戦うが。
「【凍傷】」
接触魔法を撃ち込み、スマートに勝っていた。
戻ってくると、国王が拍手する。
「ハハハ。いやー、セッちゃんの戦い方はいつ見てもキレイだねー」
「お父様、今年のわたくしはいかがでしょうか?」
「そうだねえ。攻撃呪文の精度は申し分ないと思うよ」
国王の隣には、コイ=ハマチに大人の色気を足したような魚人が寄り添っている。
「アラアラ、あなたもそう言ってくださるのね? 嬉しいわ」
「ああ、ブリちゃんも思ってたかい? うん、今年のセッちゃんは強いよ」
――ハマチの親、ブリジッタか。
「ねえ、ガイ」
お嬢様は、太ももの上で杖を握りしめ、静かにうつむいている。
「あたしの居場所……、あるのかな?」
ふむ。
「ございますよ」
お嬢様の手の甲に、そっと骨の手を重ねた。
「今年は、新生お嬢様のデビュー戦です。ダイエットに引き続き、みんなにお教えして差し上げましょう。きっと、ビックリいたしますよ?」
「――ありがとう。ガイ」
このあと、前回準優勝の美麗な魚人、前回優勝の爺さんエルフがそれぞれ出てきて、いずれも順当に勝利した。
「あのお爺ちゃん、あたしの魔法の師匠だったの」
「左様でございましたか」
「うん。最近は足が悪いみたいね」
ま、椅子ごと【飛行】で飛んでたけどな。
しかし、アレだ。この3戦のあとに王女のヘボマッチだと、「配慮」がロコツすぎるだろう。
「マルヨレイン様が言い出したのよ? ミーケとあたしで戦えば、盛り上がるだろうって」
「それは、お嬢様が測定後のことでございましょう?」
「よく分かったわね」
そりゃ分かるさ。
どんなにバレバレだろうと、建前は必要だ。
『セレーナ様と当たったコ、可哀想よね』
『ね~ぇ。下の王女たちとか、アレで決勝いけるのよ?』
風通しがいいね、ここのスタジアムは。
あちこちから聞こえるあたり、よほどの強権だったのだろう。
「オホホホ、お黙りザマス!」
反対側の救護席から、デブ黒猫がシャウトした。
「ウチのミーケちゃんは、今年こそ決勝で勝つザマス!」
「だニャ~!」
おっと、まさかのミーケママだった。王族席にいなくていいのか、40貫デブ?
「マルヨレイン様は、いつも救護班で活躍されてるのよ」
ほお。人のためにか。素晴らしい。
お嬢様のチャリティー舞踏会を、「格下の者が脚光を浴びる会に、なぜアタクシが出るザマス!?」と言って、出なかったクセにな。
場内の、ブーイングに近いざわめきの中、アナウンスが響く。
『それでは、エキシビション4戦目です。スラヴェナ王女とミーケ王女は、試合の準備をお願いいたします』
「行ってくるわね、ガイ」
「お嬢様」
「なあに?」
「――やり過ぎませんように」
お嬢様は、クスッと笑った。
「大丈夫、ミーケに恨みはないわ」
お嬢様は舞台へおもむいた。
反対側から、ミーケも歩いてくる。
「ミーケちゃ~ん!? アピールはほどほどにするザマスよ~!?」
「ニャ~!」
ああ、もう勝った気でいるのか。
――だが、今年のお嬢様は何皮もむけた。
お前たちに、果たして分かるかな?
「うニャ……?」
2人は舞台の真ん中で顔を合わせたが、ミーケはどうもそわそわしている。
「あの……、オ、オネーサンは、誰かニャ?」
観客の気持ちを代弁したような疑問に、さらにスタジアムはざわざわする。
「ミーは、『フツーのお姉ちゃん』と戦うニャ。キレーなオネーサンは、フツーのお姉ちゃんが出てこないって言いにきたのかニャ?」
「あら、ミーケ。今朝もお食事会で一緒だったでしょう?」
「ニャ?」
子猫はキョトンとしている。カワイイ。
「ミーは……ご一緒したコトないと思うニャ」
「分からない? じゃあ……ボール遊び、楽しかったわねぇ。コロコロ~、コロコロ~って」
「――ニャニャ!?」
白いシッポをブルブルと震わせる。
「えぇっ!? お、お姉ちゃんかニャ!?」
「そうよ。スラヴェナお姉ちゃんで~す」
「ニャ~ッ!?」
よしよし、ねこだましは完璧に決まったな。
あとは……料理してやるだけだ。