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56話目 ガイ、武道大会へ

 修行の日々はまたたく間に過ぎ去っていった。


「ジルちゃん、来い!」

「ウス! スラヴェナ王女様、叩かせていただくッス!」


 おい、ジルちゃんて。まあ、いいけどな。


 現在、トド姿のお嬢様は、自分の頭の上に【水】を出し、それを維持している。

 プロレスラーのジルちゃんは、相当手加減しているが、それでもビシバシ叩いている。


「うぐっ……ま、負けない!!」


 思考が乱れぬよう、頭のガードだけはしっかり杖でさせていた。その分、ボディはしこたま叩かれる。

 しかめっ面とは裏腹に、【水】は小揺るぎもしないまま、1分が経過。


「よし! あたし、大丈夫! 耐えたわ!」

「おめでとうございます」


 仕上がりは万全だ。


「ウス! 師匠、自分も技を見てほしいッス!」

「分かりました」

「あざぁッス!」


 鍛練場の皆さんには、お嬢様と模擬戦をしてもらうかわりに柔道を教えている。


「アタイより強い奴に会ってきたぜ」


 武道会の前日に、ドロテーが遠征討伐隊から帰ってきた。というかお前、私とお嬢様が出会ったダンジョンにも行ってたのだな。


「お前ら、色んな戦法を試してやるからな? とくにお袋、新生のアタイを見せてやるぜ! 首洗って待っときやがれ!!」

「ほほ、楽しみにしておるぞえ」


 みんな大会が大好きらしいな。




 そして、いよいよ武道大会が始まった。


 スタジアムに入れない人に向けて、特大の映像スクリーンが用意されているが、そこも超満員だ。


「ハハハ、お祭りは賑やかなほうが楽しいだろ?」


 たしかに。とはいえすごい魔力消費だろうな。


 じつは武道大会は、魔道のそれよりも圧倒的に人気があった。

 理由は単純で、「誰にでも分かりやすいから」。

 そのため、たとえ王族であっても、出場者以外は特別席を用意しないという徹底ぶりだ。むろん、観戦目的の冷やかし参加もお断りとなっている。


「遠くから、今日のために来てくれた人たちが大勢いるんだよ? 特別席はなるべく少ない方がいいでしょ」

「それで国王は、武道大会の方に出られるんですね」

「うん、そうだよ」


 武道大会にエントリーしている城内の関係者は、ダーヴィド国王にコルネリア様、ドロテー、そして私。あとは、鍛練場に顔を出す、ゆかいな仲間たちである。


「者どもー! 王国兵としての実力、存分に見せつけてやれー!! うらぁー!」

「「「しゃあー!!」」」


 おう、年に一度のお披露目だものな。

 円陣組んで、気合い入りまくってるよ。




 さて、去年は決勝トーナメントに届きかけたドロテーだったが、今年はまさかの予選1回戦で敗退となった。


「くそっ、ジル! お前、小技ばっかりとか、ヒキョーだぞ!」


 組み合わせ運も悪かったとはいえ、剣技の駆け引きに負けたな。というか、ドロテーは大技を狙いすぎて、簡単に判定を取られていた。


「お前ら、普段アタイとやるとき実力隠してやがっただろ!? お袋みてーにマジで来いよ!」


 ジルを含む男衆は、豪快に笑っている。


「ほほほ、まあ、遠征で多様な敵と戦ったことじゃしのぉ。そろそろ衛兵たちにも、本気・・でかからせるかえ」


 コルネリア様、あなたの指示かい。


「妾も、地味な練習が嫌いじゃったからのぉ。圧倒的な力こそ正義じゃと思うとったわ」

「そんな頃があったのですね」

「ほほほ。じゃからこそ分かるぞえ。娘はなまじ強いから、『小手先の技術』をナメておるとな。そのうえ、衛兵までもナメておる。鍛錬場のあやつらは、あくまで休暇を過ごしとるだけじゃ。敵を前にした兵士とはまったくの別物よ」


 あー、それは意識してないだろうな。


「そんな猛者どもに、真正面からブツかりおるのじゃ。リーチも筋力も負けとるのに、勝てるわけがなかろうぞ」


 自分で経験したことには、実に辛辣なドロテーママ。


「コルネリア様。今のような事を、お話しされてはいかがですか?」

「ほほほ。かような大舞台で負かしてやらねば、芯から納得なぞせぬわ」


 娘は全力で負かそうとしていたのに、親はどう育てようかと考えている。


「クソー! アタイ、修行すっぞ! 待ってろお袋ー!」


 まだまだ母を超える日は遠そうだな、ドロテー。


『33番から40番までの選手は、控え室で準備をして下さい』


 おっと、私の出番が近づいてきた。


「さて、次はガイ君だね」

「はい。それでは、行って参ります」

「ほほほ、楽しみにしておるぞえ」


 国王とコルネリア様に見送られ、私は出陣した。


 ――出るからには勝つ。気合いを入れてかからねばな。


 1回戦の相手は、流れ者の狼人だった。鍛錬場チームより凄みはないが、どんな技を披露してくるか不明な分、ブキミである。

 相手が剣を構えた。私も、ゆっくりと中段に構える。付け焼き刃程度には練習した。


「始め!」


 相手が猛烈に突っ込んでくる。


 ――よし、今だ!


 相手が剣を振りかざした直後、私はバラバラになってみせた。

 すかさずリセットを行って態勢を整えると、ブザーがなる。


『ガイギャックス選手、魔力使用により反則負け』


 え?

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