53話目 これが私の生きる道
お嬢様はベッドで横になった。
「あ~ん、やっぱりあたしにはムリだったのよ。あたしはママじゃないもの」
そう言って、私のほうをチラリ。
お前、否定してほしいのか。「お前なら頑張れる」系の話で。
いつもいつも意に沿うと思わぬことだな。
「ええ、あなたはママではありません」
「え!?」
ショックだったようで、ガバッと跳ね起きる。よしよし。
少し黙って見つめたのち、首を傾げてやった。
「あなたには、あなたの戦い方があるハズです」
お嬢様は、あからさまにホッとする。表情豊かで、実に面白い。
さて、マーサ様の戦法を、あわよくば丸パクリできるかと思ったのだが、これはムリだ。
読み合いを制して【中止呪文】を決めるには、それこそ10年単位の人生経験がいるだろう。
出来ないことはしない。出来ることをさらに伸ばす。
これが、必殺技への近道だ。
「お嬢様。マーサ様がやっておらず、あなたがやっている事はなんですか?」
「えぇっと……紫魔法ね。ママは、青ひとすじだったから」
「単純にギモンなのですが、複数の色の魔法を、立て続けに使うことは出来ないのでしょうか?」
「んっと、『魔力の質』っていうのかな? それを切り替える必要があるの」
「それは、どのぐらいの時間で出来ますか?」
「どんなに速くても、10秒はかかるわね」
なるほど。日常で使うなら問題ないレベルだ。
しかし、戦闘時には長すぎる。
「そうなの。だから、一番得意な色だけに集中して、他の色は全く知らないって人も多いわよ? 習っても、せいぜい基本魔法ぐらいでね」
うむ。しかしそれでは、いい紫魔法があっても同時に使えないのか。
「あ、待って。概念の勉強をしてたってのは言ったでしょ?」
「そうですね」
「【魔力視覚】って呪文はあるけど、あたし自身の目に、特徴として《魔力視覚》を持たせることも出来るのよ。ずっと魔力を使う必要があるけどね」
ふむふむ。
「それは、大会でも使用できるのですか?」
「ええ。魔法技術だもの」
なるほど。しかし、これだけだと大した戦力にはならないな。
「お嬢様。他にはどのようなワザが?」
「ん~、使えないものばっかりよ? たとえば、《二重魔法》って特徴があるんだけど」
名前だけなら非常に強そうだ。
「同時に呪文が使えるなら、とても使えると思いますが」
「ねー、そう思うわよね? でも違うの。かたっぽの準備時間が10倍になって、魔力消費が倍になるの」
うーむ、なんという名前サギ。
「あと、《魔法熟達》ってのもあるわね。これはリスクなし」
ほほぉ、これまたいい感じの名前だ。――って、表情がすでに暗いぞ。
「えっと、効果はね、魔力の消費を抑えられるってモノなの……。あたし、魔力量が少ないと思ってたから、頑張ってコレ勉強したのよ……? はぁ~あ、なんか、ムダになっちゃったわね……」
「他は無いですか?」
「ありません、先生。あたしの全部です」
ふむ。随分落ち込んでいるな。
推測どおりなら、必勝の策が見つかったのに。
「お嬢様。確認させて下さい」
「はーい」
私が質問をする。お嬢様が答える。
しだいに、ふてくされ気味だったお嬢様の目が見開かれる。表情が輝き、どんどんやる気が満ちてくる。
「ウソ……! そ、そんな技で……!」
「ええ、確認したことが事実なら、100%です」
――そう。
キッチリ鍛え上げれば、100%お嬢様は勝つ。
「ね、ねえ……教えて、ガイ。あたしは、何をしたらいいの……?」
「まずは、柔軟さを上げましょう。とくに、肩から指にかけてのストレッチですね」
「他には?」
「魔力を鍛えます」
「ええ、それはそうよね。あと、他は?」
「あまり……気が進みませんが」
「何よ~。あたしはねえ、やる気になれば出来る子なのよ?」
そこまでやる気を引き上げた私をほめろ。
「大丈夫。勝つためなら何でもするわ!」
――ほお。言ったな?
私は、壁に置いてあったお嬢様の杖を握った。
「今から叩きます」
「え?」
「お嬢様を叩きます」
「え、え?」
「勝つためです」
ぽかっ、ぽかっ。
「いやー!」
「耐えて下さい、お嬢様」
ぽかっ、ぽかっ。
「あー、なんとゆーことだ。私は従者失格です。勝つためとはいえ、お嬢様を叩くなど」
「ガイ、あなた楽しんでやってない!?」
「いえいえ、心が痛んで仕方ありません。心臓はないですが」
「絶対楽しんでるー!」
はて、聞こえんな。耳もないし。
実際に、勝利には必要なことだし、これでストレス解消……じゃない、お嬢様を鍛えるとしよう。ははは。
「アンタ笑ってるでしょー!?」
ノー、ノー。ガイコツ笑わない。