5話目 ふくよかなお嬢様
「いい? あたし達みたいなモンスターには、魔力の核があるの。これがないと、体を維持できずに、グズグズに崩れて消えちゃうのよ」
「スラなんとかさんの核はどれです?」
「これよ。あと、スラヴェナって名前だからね」
スラなんとかさんは、青い体をよじらせて、赤い核を見せた。
「これって、ある意味、ハダカを見せるよりも恥ずかしいんだからね! 感謝しなさいよ!?」
「おや、スライムは丸裸ですが」
「人型になれるに決まってるじゃない!」
なんだ、そうなのか。
私は頭を外すと、スキマを通した。
「じゃあ、出て下さいよ」
「――いいの!! ほっといて!!」
ああ。
デブだな。
部屋は、奥側1/4が鉄格子で遮られていた。格子1つの大きさは、タテ50cm、ヨコ25cmである。
この枠を、出られないレベルか。
「300キロぐらいあります?」
「そんなにないわよ!!」
だろうな。
やはり、結構ある、と。
「ともかく! あたしなら、アンタの魔力の核を探知できるわ! あたしならね!」
「で、教えてほしくば、カギを開けろと」
「そうよ! どう?」
どうか、と言われたら、コチラが圧倒的に不利だ。
本来は、開けたとしても、素直に教える保証などどこにもないのだから。
人差し指をスッと立てた。
「スライムさんは、どんな悪さをして捕まったんです?」
「ただの被害者よ! 貴族だし、誘拐とかして身代金を取ろうとか、そういうことなんでしょ!?」
「あなたは、自分を善人だと思いますか?」
「少なくとも、悪人ではないと思うわ」
即答。
――まあ、正直ではある、か。
「手伝いましょう」
「良かった……!」
おデブなお嬢様は、安堵したかのように、のべ~っと広がった。
「えぇっとね、ここはゴブリンの居住区よ。ねえ、あなた。あいつらバカだから、その辺にカギの束をほっぽってなかった?」
見た限りはなかった。
そのとき、にわかに入り口の方が騒がしくなってきた。ドタドタと音がする。
「ヤバい! 奴らが帰ってきたわ!」
直後、部屋の入り口に、緑色の怪物がゾロゾロと現れた。
身長は1.5mほどで、装備はいずれも腰ミノとショートソードである。
――いや、後ろにいる、やや大柄な1体は、革鎧をつけていた。腰には、ジャラジャラとカギの束を持っている。
「あっ! あいつが持ってるわ! だけど、数が多すぎる!」
ゴブリンどもは、私を見るや、雄叫びをあげた。ギャーッと剣を振りかぶって襲ってくる。
「問答無用というわけか……」
私は、慌てず騒がず、ポイポイと体を投げた。
牢屋の中に。