表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/188

49話目 宣戦布告

 魔道訓練場には、20人ほどがいた。比率は、魚人が半分ぐらいで、竜人や獣人で残り半分か。


 入り口の手前でお嬢様を待たせると、まずは私だけが入った。

 正直、魔法が使えなかったため、入るのは初めてである。部屋の仕組みはほぼ同じだが、女性も半分ほどいるのが鍛練場との違いか。


「セレーナ様」


 真っ先に、コイへと挨拶しにいった。


「舞踏会以来ですね。ご機嫌うるわしゅう」

「あら、あなたはスラヴェナのお付きの……。ようこそいらっしゃいませ」


 セレーナは余裕たっぷりに笑顔を見せている。コイの悲劇など微塵も思わせない才媛っぷりだ。


「ガイさん。本日は、いかがなさいましたか?」

「はい。実は、お嬢様が青魔法を使いたいというので、許可を賜りたいと」

「あら、そのような約束など、昔の話でしょう? 別によろしいのに」


 お前にとっては、そうだろうがな。

 我々にとっては、ついさっきまで呪縛だったんだよ。


 私は、ゆっくりと振り返ってみせた。

 訓練場の入り口からは、美の女神をインストールしたお嬢様が、舞踏会のドレス姿でしずしずと歩いてくる。


「ぎょっ!」


 おー、そっちも早速、コイをインストールか。やるな。


 女性魔道士たちの囁きが聞こえる。


「アァ……、お美しいですわ……」

「スラヴェナ王女様、お母上にそっくりでいらして……」

「やっぱり、おウワサは本当でしたのね……」


 舞踏会というのは、基本的に貴族の集まりだからな。スタッフとして参加してない一般職員も多かっただろう。

 これで、確実にみんなに広まるな。


 お嬢様は、ニッコリ笑った。


「セレーナお姉様」

「え、ええ……。な、なあに、スラヴェナ? 改まって」

「はい。私の魔力についてのお話ですわ。10才当時は、質、量ともに低かったため、皆様をいたく失望させてしまいました。申し訳ございません」


 ゆっくりと、誠実に話すお嬢様には、一分のスキもない。


「そんななか、お姉様が『せめて魔法に携われるように』と、紫魔法をすすめて下さったご配慮には、深く痛み入ります」

「え……ええ。そうだったわね」

「――ですが、ご覧下さいませ」


 スラヴェナは、青魔法を詠唱した。

 一度回路をつないだため、すぐさま【水】が発動する。


「んマァ…!」


 取り巻きの魔道士たちが、一斉にザワつく。


 お嬢様は、特大の【水】の塊を空中に喚び出した。


「ス、スラヴェナ様の魔法って……」

「最低ランク……だったハズでしょう……?」

「ですけど、この魔力は……」

「『ザ・デス』の再来ですわ……」


 無論、セレーナも口パクだ。


「あ、あぁ……」


 スラヴェナは、穏やかな笑みを湛えたまま【水】を消した。


「お姉様。私、今までは適正がなかったみたいですけど、しばらく前に目覚めたみたいなのです。この感激を最初にお伝えしたくて、馳せ参じた次第ですわ」

「あ、あぁ……」

「お姉様。私の魔力が及ばぬために止めておられた青魔法の使用を、認めてくださいますか?」


 セレーナを正面から否定するのではなく、立ててやることがポイントだ。

 むろん、言外には、「ここで否定すると、『イジワルな姉』に見られますよ?」というメッセージも込めている。


 監修? 私、ガイえもんです。


「よ、良かったわ、スラヴェナ……」


 結局、セレーナは認めざるを得なかった。


「ええ……。魔力の量・質ともに申し分ないですわね。眠っていた力が覚醒したのであれば、何をためらうことがありましょう? どんどんお使いなさい。亡きマーサ様のような、それはもう、素晴らしい使い手になりますわ」

「はい、お姉様。私、頑張ります」

「わ、わたくしも……、魔道大会では、ウカウカしてられませんわね」

「いいえ。私など、まだヨチヨチ歩きのひよこも良い所。お姉様の足元にも及びませんわ」


 囁き声は、いまだに続いている。


「ひよこ……?」

「とてつもない海竜でしたわよ……?」

「えぇ、それに正直、魔法力はセレーナ様より上かも……」

「シッ! いけませんわ」

「でも、ほとんど実力差は……」


 ほお、セレーナのサポーターが見ても、良い感じなのか。

 ならば……本気・・で優勝を狙うかね。




 私は、発破をかける意味で「優勝」をブチ上げた。

 魔法を見るに、お嬢様に実力はあると思っていたから、これで奮起してくれれば、ミーケぐらいなら倒せるかもしれない、と。


 だが、考えてみれば、セレーナも魔道大会に出るのだ。


 とすれば。


「私、セレーナお姉様と対戦するときが今から楽しみです。本戦では、胸を借りるつもりで頑張りますわ」


 お嬢様、満面の笑み。


 おー、よくやった。花丸やろう。


 優雅に一礼したお嬢様は、再びしずしずと戻っていった。


「あ、あぅ……」


 パクパク、パクパク。

 まったく。口だけでなく、まばたきも多いね、このコイは。


「セレーナ様。お嬢様が退室したので、私も失礼させていただきます。それでは」


 きびすを返した私は、速やかに訓練場をあとにした。


 ――見事な宣戦布告だったよ、お嬢様。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ