45話目 打倒ミーケ(楽勝)
ザコデブスライムのお嬢様は、ダメムリムダ魔人と化した。
こんなときは、言いたい放題言わせておく。どうせすぐ息切れだ……ほらな。
「お嬢様」
私は、ベッドに座ってゼハーゼハーと息を吐くスラヴェナお嬢様を、静かに見下ろした。
「今回は、たしかにダイエットとは違います。相手がおりますからね。しかし、目標はお嬢様が決められます。お嬢様は、どうなりたいですか?」
「1回戦を勝つ」
「本当ですか? 最終的な目標が、それでいいんですか?」
「うっ……そ、そりゃ、優勝できたら嬉しいけど……」
「ならば、『魔道大会で優勝する』が大目標で良いですね。スッキリしてるし、ブレようもありません」
「だ、だからあ……。あたしは、ミーケにも勝てないのよ?」
ふむ。やはり、トラウマは強固だな。
とすると、まずは自信を持ってもらうことからか。
「ミーケ様には、楽勝ですよ」
「そんなの無理よ。出来っこないわ」
「ほお。絶対にですか?」
「少なくとも、1ヶ月後とか、そんな短期間じゃ無理ね」
「では、私が勝ち方を伝授しましょう」
ガイえもんの私は、腹からボールを取り出した。
「えっ? ジャグリングのボール……、どうするの?」
私は、部屋の床で転がしてみせた。
「作戦をお教えします」
私は、お子様猫のミーケの部屋へ入った。
「ニャ~、来たかニャ、ガイ……ニャニャ?」
ミーケが見咎めたのは、私のうしろにいる、スライム姿のお嬢様だろう。
「なんで一緒に来たのニャ?」
「いつも私だけがボールを転がしていると、クセというものが出てきますのでね。今回は、お嬢様にも手伝ってもらおうと思いまして」
「ニャ~。ガイならともかく、フツーのお姉ちゃんには負けないニャ~」
ほお、言ったな?
お嬢様、やってしまいなさい。
「はにゃ~……ごろごろ~、ごろごろニャフ~ン……」
「う、うそっ……。こんな転がし方で……?」
ああ、最近は大分耐えていたがな。
ビミョーに転がし方が変わって、また釣られたか。
「どうです、スラヴェナお嬢様。楽勝でしょう?」
「で、でもこれは、ボール遊びだから……」
「勝ちましたよ?」
「――そうね」
何であろうと、まずは「勝つ」イメージを頭にインプットする。これが大事だ。
しばらくは、お嬢様にボール遊びをさせるとしよう。
お嬢様は、丸まってボールを転がすニャンニャンな子猫を、じっと眺めていた。
「ミーケって……カワイイのね」
おや。
「怖いとばかり思ってた」
ふむ。
トラウマ脱出に、可愛さは役立つのかもな。
3日後。
「ニュ……ニュフフ……。ついに耐えたニャ……。スゴ~いミーにかかれば、1ヶ月という短期間でボールを克服するなんて、カンタンだったニャ~!」
おー、意外にかかったな。秘密の道具は108つぐらいあるから、9年遊べるぞ。
「ガイも、フツーのお姉ちゃんも、よくもまあスゴ~いミーをもてあそんでくれたニャ? 絶対に魔道大会でボコボコにしてやるニャ~!」
スライムのお嬢様が、不安そうに震えるが、何も問題はない。今日も私はガイえもんだ。
腹の道具ポケットから、ゆっくりとペンを取り出した。アイハブアペン。
「ニャ? ふっふ~ん、フツーのペンなんかに負けないニャ!」
あーあ、また言っちゃったよ。
私はペンの端っこを持ち、ふるふる~っと震わせた。
「ニャ……ニャニャ~!?」
ほら、食いついた。
鉛筆だと、もっとぐにゃぐにゃに見えるんだよな。ラバー・ペンシル・イリュージョンなどという、大層な名前がついてたハズだ。
「か、貸すニャ!」
「どうぞ」
ミーケは触ってみるが、もちろんタダのペンだ。
私が持って振ると、またぐにゃぐにゃになる。
「ふにゃ~……、な、なんでだニャ~……」
錯覚だ。
ミーケは、またもや口あんぐり。
やはりチョロい。
「ニャ~、魔法だニャ……。ゼッタイ魔法使ってるニャ……。ガイが、スゴーイ【幻覚】をミーにかけてるんだニャ~……!」
前提条件を間違えると、あらぬ結果に辿り着く。
ミーケはその事を、身をもって示してくれているらしい。
この様子だと、一生遊べるな。――おや?
「ガ、ガイ……」
スライム姿のお嬢様が、義肢でつついてきた。
「それ……どうなってんの?」
お前もか、スラータス。