44話目 ザ
お嬢様のやる気は継続中か。
ならば、お付きとして、しっかり取り組むとしよう。
「ではまず、大会についてご説明願えますか?」
「分かったわ」
お嬢様によると、魔道大会は9つの部門があるとのことだった。これは、8色の色別魔法部門と、1つの総合部門によって行われるらしい。
「で、花形はやっぱり、『総合』なワケね。あたしもこのトーナメントに出るの」
そして、いつも成績がふるわない、と。……おや?
「妙ですねえ。お嬢様は、毎年ミーケ様に負けておられるのでしょう?」
「ぐっ……イヤなことをハッキリ言うわね」
「遠回しがお望みですか?」
「あんたの皮肉は、イヤらしいからダメ!」
「おやおや。皮も肉もございませんよ。なにせ骨ですから」
「そーゆートコロよ!」
HAHAHA、ナイス、骨ジョーク。
「しかし、だとすると、お嬢様とミーケ様はかなり早めにトーナメントで当たっているのですねえ」
「あー……あのね、ガイ。今のルールだと、必ず当たるのよ」
「――は?」
どんなハウスルールだ。
「大会には、最初にエキシビションがあるの」
あー。
「ミーケとあたしは、そこでいつも戦ってるの。ほら、開幕から盛り上がる試合がないと、お客さんって途中から入るじゃない? そのエキシビジョンの1つに、王女同士の試合が組まれてるワケ」
ふむ。たしかにトーナメントの序盤は、強敵同士が当たらないから、客入りが少ないだろうな。
そういえば、相撲好きだったお爺さんが、たまに早い時間から取り組みを見てたが、最初は客席が空いてるとか言ってたし。
「で、勝った方はシード、負けた方はトーナメントの下からスタートなのよ」
なるほど。だが、それだとエキシビジョンだけ見た後、一旦会場から出る客もいるだろうな。
「その飽きさせない対策として、トーナメントの下位をやってる間に、各色の魔道大会が同時開催されてるのよ。それがちょうど、シードの出てくる前ぐらいに終わるわね」
ほお、ウマい事つなぎ止めてるのか。魔法に興味がなければ、そもそも武道大会だけ見るものな。
と、いうことは。
「お嬢様は、みんなが見てる前で、5才下の妹に毎年負けてるんですね?」
「――そうよ」
「何年前から負けているのですか」
「ミーケが……6才のとき」
「はあ。それより前は?」
「年齢の下限が6才からなんで、向こうが不参加だったわ……。あたしはそれ以前からトーナメントに出てたけど、いっつも1回戦負け……」
つまり、1回も勝ってないのか。
「でも、大丈夫。今年は2回戦を目指すわ!」
ふむふむ、その意気だ。――と言いたい所だが。
「お嬢様」
「なあに?」
「なぜ、ミーケに負ける前提なんですか」
その途端。
私を見たお嬢様は、顔をブルブルと横に振った。
「か……勝てっこないわよ!」
「なぜです?」
「あたしは1回も勝ててないのよ!? 『ザ・デス』なの!」
「ザコデブスライム、ですか……。しかし、デブは解消しましたよね? あなたは、変わる力があることを見事に示したハズです」
「今度はムリよ!」
「大丈夫です。『ザ』も解消できますよ」
「でも、これはダメなの!」
やれやれ。本当に、ダメな方向にはガンコだね。
「だって、出来もしないことを言ったってしょうがないじゃない! だから、身近な目標から挑むのよ!」
ふむ。一理ありそうだが。
「話になりません」
「なんでよ!?」
「負け犬根性が染みついているからです」
そう。
大目標を立てた上で、そこに至るための小さな目標を次々こなすのならOKだ。やる気も維持できるし、今のペースが速いのか遅いのか、大目標までは遠いのか近いのかが分かるから。
しかし、今のお嬢様の場合、「2回戦に行く」が大目標になってしまっている。
次々と目標を変えていけるタイプではないから、始めにドカンとブチ上げておかないと、小さくまとまってしまう。それでは、みんなの見る目が変わらない。
「お嬢様? ここは強く言っておきますがね。ダイエット作戦のときも、もし私が最初から『上半身の脂肪を下半身に動かします』と伝えていたら、ナマケたでしょう?」
「うっ……そうね。最初のうちは、とくにそうだったかも」
「大目標は、高く設定して下さい。今回の場合、どこですか?」
「え、えぇっと……優勝?」
「それです」
「えぇ~!!?」




