43話目 新たなる修行
舞踏会での宝石事件は、お嬢様を一気に話題の中心へと押し上げた。
一方、ゴミの始末だが、「修行」と称してジャスティアへと戻されたらしい。
「申し訳ございません、国王陛下! 愚息は、ドワーフの工房でみっちり性根を叩き直させますので、平に、平にご容赦をー!」
ジェレミー貴金属店の店長が、地面に頭をこすりつけて謝罪したとのことだ。
「スラちゃん。こう言ってるけど、どうする?」
「あたしはもう全然平気よ、パパ」
「だってさ。良かったね、店長。これからも、いい製品を作ってくれるかな?」
「は……はい。今後ともよろしく……」
笑顔とは、本来攻撃的なものらしい。
魔王様の笑顔は、それはもうステキだったそうな。
いったん全部引き上げるように見せてから、関係を再構築する。ゴミは片付いたし、落とし所としてはこんなものであろう。
それもこれも、お嬢様が変わったからこそである。
そのまま宝石店を切り捨てたところで、単なる報復止まり。事によっては、心が狭いなどという悪評もついたであろうから。
「いや、ガイ。もうホントに大丈夫よ?」
スッキリした顔で答えているあたり、ゴミ処理については心の整理がついたのだろう。
今、お嬢様は部屋でストレッチをしている。
舞踏会では、美の女神を降臨させるため、いわば前借りをしていた状態なのだ。ダイエット作戦は継続中である。
「ママのドレスに、いつまでも頼ってちゃいけないものね」
「左様でございます」
そのため外では、スライム時も人間時も大きく見せている。
「セレーナお姉ちゃんが、食事会で言ってきたわ。『スラヴェナ。その……や、やせた姿にしないの?』って」
こら、コイの口パクをやめい。
「お嬢様は、なんとお答えに?」
「ミーケがビックリいたしますから、と」
ああ、たしかにミーケは見てないものな。
ミーケにしてみたら、一夜にして「フツーのお姉ちゃん」の評価が激変しているのだから、キツネにつままれたようなものだろう。
“見たいニャ、見るニャ、見せるニャ~!”
こんな様子が、目に浮かぶようだ。
「まあ、今後は何が起こっても大丈夫よ。あたしは変われる。変わってみせる!」
自信満々のお嬢様だった。
昼食後。
「うわ~ん、ガイ~!」
どうしたよ、スラヴェ太くん。君の顔にメガネが見える。
「あのね~? 朝はあたしの話題で持ちきりだったんだけど、お昼はドロテーお姉ちゃんがチラシを持ってきたのよ~!」
「チラシ?」
ああ、それはもしかして、一般職員の食堂でも見たアレか。
お嬢様が渡してきた紙は、武道大会&魔道大会のお知らせだった。
「あ~ん! 忘れてたわ~! これ、王族は全員参加なの! あたしの天下、半日だったわ~!」
ベッドに突っ伏すお嬢様。――お前、変われるんじゃなかったのかよ。
日付を見ると、武道大会が1ヶ月後で、魔道大会はその翌日だ。
「お嬢様は、どちらに出られるおつもりで?」
「あたしが武道で勝てると思う!?」
何を切れてるんだ。
「あぁ~……。ミーケの奴が、またエラソーに言ってくるのよ? 毎年あたしに勝ってるからって」
ミーケ。それは姉に勝てる妹。
「お嬢様」
私はヘタに落ち込ませないよう、優しい声とともに肩を叩いた。
「諦めましょう」
「そこは『修行しましょう』でしょ!?」
ああ、そうだよ。試したんだよ。