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40話目 絶世の美女

 舞踏会当日は、国内外からゲストが呼ばれていた。


 主役であるお嬢様は、会のオープニング時に登場する手筈となっている。


「ガ、ガイ……。き、キンチョーしてきたわ……」

「まあまあ。まだスライムのお姿ですから。人間姿のお披露目は、出る直前で大丈夫ですよ」

「う、うん……」


 移動もカチコチだ。おいおい、液体のスライムが氷になってるぞ。

 丸っこい上部をポンポンと叩く。


「お嬢様。笑顔です」

「え、笑顔?」

「はい。妙なことを言われて怒りたくなっても、ただ、ニコニコとしていれば大丈夫です。そのうち、良い返事が思い付きますよ」

「分かったわ」

「では私は、一足先に会場でお待ちしております」




 お付きの私は、現状とくにやることがない。

 本来は、主役の側仕えなのだから、話題の中心になりそうなものだが、それは私抜きでも行えるらしい。

 壁ぎわで、用意されたシャンパンを飲みつつ、笑い声が起きたのでそちらに目を向ける。


「いや~、流石です。あ、わたくしジェレミー貴金属のジミーと申します。どうもご贔屓に」

「おー、此度の王女様の元婚約者だったとか。災難だったねぇ」

「はははは、何事も経験です」


 ちっ、ゴミが目に入った。なんだあの愛想笑い。


 しかし、まさか異世界で燕尾服を着るハメになるとはな。それも、ガイコツ姿でだぞ。


「よ! ガイ」


 拾う者もないハズの屍に、ワインとサンドイッチを持ったドロテーが話し掛けてきた。


「この辺空いてるな。アタイもここで待ってるぜ。メシもあるし」

「ご随意にどうぞ」


 竜人の王女は、全然空気を読まないね。


 ドロテーは、真っ赤なアオザイのようなドレスを着ていた。生地の表面には、金色の西洋竜が炎を吐いているような意匠が施されており、黒い肌にハデな色がよく映える。


「なあ、ガイ。お前、な~んか最近コソコソ動いてんだよな~? 今度はナニやる気だ~?」

「ふふっ、買い被りです」


 鋭いな、ドロテーは。

 小首を傾げ、軽くかわしておく。


「ドロテー様、そちらはいかがですか? お父上とのお食事会で、何か変わったことでも?」

「イヤ、別にねえな~。ミーケのやつが、散々『ミーが出たほうがいいニャ』とか言ってるぐらいだぜ」

「おやおや。あと5年お待ち下さいませ」


 ボール遊びのときは言ってなかったな。弱みを見せたくなかったのか。

 お子様猫のミーケは、もちろん不参加である。


『ご来場の皆様』

「お、セレーナ姉だ」


 壇上で、マイクのような魔具を持ったセレーナが、笑顔で挨拶していた。


『本日は、イェーディル国のチャリティー舞踏会にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます』


 セレーナは上品に頭を下げた。


『また、皆様ご承知かもしれませんが、今宵はわたくしの妹、スラヴェナのお披露目の場でもございます』


 紺のドレスは、裾も微妙にふんわりとしている。スラヴェナが、母親のような衣装を着てくるという読みがあったのだろう。完全にスライムをツブしにきている。

 イヤらしいことに、青は魚人のイメージカラーでもあるため、ブツける意図はなかったと言われればそれまでだ。


『スラヴェナは、母君であられるマーサ妃殿下を亡くされ、ふさぎこんだ時期もございました。ですが、今や、どこに出しても恥ずかしくないほど、立派に成長いたしました』


 「立派に成長」の下りで、会場のあちこちからクスクスと失笑が漏れるものの、セレーナは顔色ひとつ変えない。――上等だよ、この女。


『それでは皆様、万雷の拍手でお迎えください。ダーヴィド国王とマーサ妃の娘、スラヴェナです!』


 舞台のソデへ、サッと手を向けるセレーナ。――おう、完璧だったよ。あとは、トドが出てきて寝返りショーを見せれば、セレーナ調教師の株はウナギのぼりだ。


 もっとも、そうはならんがね。


 セレーナの指の先を見た来賓たちは、そこから出てきた女性を見て、一挙にざわついた。


 毒を含んだ人魚は、観客の反応を楽しむかのように満足げにほほ笑むと、舞台ソデをチラリと見やる。


「――ぎょっ!?」


 おやおや、王女様らしからぬ、妙なお声だね。

 まあ、無理もないか。


 なにせ……そこからは、絶世の美女スラヴェナが出てきたのだから。

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