4話目 ハダカ・ミーツ・ハダカ
そのスライムは、直径80cmほどだろうか。私の想像するスライムより大きいソレが、牢屋の中に入っていた。
「ねえ、あんた! 喋れないの!? てか、聞こえてる!?」
「聞こえてますよ」
「あ、良かった~!」
ニュルリ、と、2本の鉄格子の間から、少しせりだした。人間でたとえると、鉄格子を握って顔を出したようなものか。
「えっとね、あたしはスラヴェナ。こう見えても貴族よ!」
スライムにしか見えない。
「あんたは? 名乗りなさいよ」
「名前はまだないです」
丁寧な相手には丁寧に返す。そうでない相手には、それなりに丁寧に返す。
「スラヴェナさんですか。大変ですね。では、強く生きて下さい」
「え!? ちょ、ちょっと! それだけ!?」
「はい」
「見捨てる気!? 牢屋のカギを探してよ!!」
「――ふむ」
格子を、手に持った肋骨でコンコン叩いてみた。うむ、フツーの鉄格子だ。
次に、幅を計ってみる。うん、肘から手首ぐらいまでか。25cmといったところだな。
私は首を傾げると、中に鎮座する「まんまるいレディ」を見た。
「スライム……ですよね?」
「見れば分かるでしょ」
「いまのように、体は変化させられますか?」
「当たり前でしょ」
「なら」
私は、カポッと頭を外した。そのまま、ひょいひょいとスキマを行き来してみせる。
「これを、抜ける頭はお持ちで?」
「あるに決まってんでしょ!?」
おや、あったのか。
「律儀に、扉から出られるつもりかと」
「出られるぐらいなら出てるっての!!」
ひんやり水色なのに、何をそうカッカしているのやら。
むにゅ~っと、義肢のようなものを細長く伸ばしてきた。
頑張ってやってみたのだろうが、明らかに「本体」が出ていない。
「はぁ、はぁ……。だからぁ、こ、これで限界なのよ……」
「細さが足りませんね。太すぎます」
「太ってるってゆーな!!」
スライム大暴れ。おお、少し牢屋が揺れた。破壊するほうが、まだしも可能性は高そうだな。
「ねえ、アンタ! 無事に帰れたら褒美ははずむわ。助けてよ!」
おやおや、典型的なダメ貴族のパターンだな。この手の話で、キチンと見返りがある事などめったにない。
「スライムって、鉄とか溶かせないんですか?」
「肉しかダメなのよ! っていうかアンタ、さっきから態度が横柄なんだけど!?」
「丁寧ですがねぇ」
慇懃無礼。ああ、実にいい言葉だ。
「ウソ! バカにしてるでしょ!?」
「滅相もない。こんなスカスカの鉄格子を出られないスライムというネタを、体を張って提供して下さったのですから。一生の笑い話にします」
「待ってー! ホント待ってー!!」
初めて悲痛な叫びが聞こえた。
「始めから、その声で呼べばよかったのに」
「あなた、このままだと死ぬわよ!?」
――前言撤回。
今度は、つまらない脅しか。
「付き合ってられませんね。では」
くるりと回って出口に向かう。
「ウ、ウソじゃないわ! あなた、『核』がないでしょ? いずれ、体を維持できなくなって、バラバラの骨になるわよ!?」
立ち止まって、きびすを返す。
「詳しく話して下さい」