表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/188

37話目 残酷なペテン師のテーゼ

 本人のやる気があれば、結果は自ずとついてくる。それは間違いない。


 しかし、激変はときに、残酷なタイミングで真実を告げる。


 お嬢様は、今は見ずとも良い「残酷な真実」にまで、シッカリと目を向けてしまったのである。




 3週間目も、順調に体重は落ちていた。


「随分と、体が柔らかくなられましたね」


 今は、床で開脚ストレッチをやらせている。


「もうすぐ、足より前に手が付きそうですよ」


 私は、壁に架けた水色のドレスを見た。裾の大きく膨らんだデザインで、高貴な王女様が着るにふさわしい逸品だ。

 聞けば、母親のマーサ様も着られたらしい。たしかに肖像画も、このドレス姿で描かれていた。新生した姿を見せるのに、これ以上ない衣装と言える。


「ねえ、ガイ」


 お嬢様はポツリとつぶやいた。


「さっき昼食で、セレーナお姉ちゃんがステーキをくれたの。おいしく食べたら喜んでくれたんだけど、食べて良かった?」

「はい、大丈夫です」


 肉の1枚や2枚、ゴブリン肉に比べたら誤差である。


 しかし、お嬢様は続けた。


「お姉ちゃんってさ……。あたしに、変わってほしくないのかな?」


 ほお。


「なぜ、そう思われましたか?」

「えっとね……。『あなたは、そのままでいいのよ』とか、『良さを理解できない周りが悪いの』とか……。これって、ちょっと聞くと優しいんだけど、あたし、実際は変わってきたのよ?」


 ああ、それはよく分かる。そもそも最初は、開脚すら不可能だったし。


「もちろん、優しいのは嬉しいんだけど……続きがないのよ」

「続き、とは?」

「そこから先の支援ね。ガイとの、ダイエット作戦みたいなやつ。あと……あたし、こんなに不出来なのに、『悪賢い王女様』って言われてるの」

「初耳ですね」

「あなた、耳ないでしょうに」

「バレましたか」


 ガイコツジョークは癒やしである。


 実は、私も知っていた。むしろ、そんな話は、一般職員の食堂で食べているほうが、よく聞こえてくる。


悪食・・令嬢』

『ザコデブスライム。略してザ・デス』

『飛んでるもの以外は何でも食う』

『ダーヴィド国王とマーサ様から、どうしてあんなのが生まれたのか』

『拾ってきたんだろ』

『他の王女様はおキレイなのに』

『ハダは白いが、悪事で心は真っ黒』

『性根の悪さがデブな体にも出てるんだろ』・・・


 あまりに悪評が過ぎるせいで、「ガイも大変だな」などと、私のほうが同情される始末だった。

 もちろん、こんな悪口をわざわざ伝える必要などないので、すべて黙っていたが。


「あたしね、セレーナお姉ちゃんがこういう悪評を止められないのは、数が多いからだと思ってた。じっさい、あたしはデブだったしね」


 今もな。


「でも……セレーナお姉ちゃんって、影響力大きいのよ? あたしが何か助けてほしいって頼もうとすると、忙しくて時間が合わないけど」

「ふむ」

「お姉ちゃんが、みんなに何か言ってくれるだけで、ずいぶん変わるかもしれない。――いえ、変わらなくても、そういうふうに言ってほしかったの。パパみたいに」


 そう。

 ダーヴィドパパは、大々的にお触れを出していた。

 種族差別や身体的特徴であげつらうことを嫌う国王である。

 人の口に戸は立てられぬにしても、せめて自分の前でぐらいは娘を安心させてやりたい――。

 もちろん、直接スラヴェナを保護するような法ではないが、娘を思う気持ちはよく分かった。


 ――王は、何でも出来るからこそ、娘に張り付いてかばってやれないのを、無念に思っているのだな。


「だけど、お姉ちゃんは違うの。言葉は優しいんだけど……浅いの」


 ストレッチを終え、お嬢様は立ち上がった。


「ねえ、ガイ。率直に聞かせて。セレーナお姉ちゃんは……あたしを、ダメにしようとしてるの?」


 ああ。


 お嬢様は、もう答えが分かったのだな。


 やられた側は、結構わかるものだ。

 その優しさが、「本物」か、「偽物」かが。


 お嬢様は変わった。

 それゆえに、気付いてしまったのだ。

 残酷な真実に。


「お嬢様の想像どおりです」


 私は、ゆっくりとうなずいた。


「セレーナ様は、自分をよく見せるために、あなたを利用していたのです」

「――うん。ありがとう」


 お嬢様は青い光に包まれたかと思うと、スライムの姿に変身した。


「ガイ。今日も外へ行きましょう」

「かしこまりました」


 窓の外は雨だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ