36話目 停滞期へのチート
「ガイ……もしかして、あたしがやせないから諦めちゃったの? だから、せめて笑いものになる前ぐらい、いい思いをさせようってこと……?」
そう言いながらも、森でシッカリとゴブリン10匹を食べるお嬢様。ご飯がノドを通らないなど、お嬢様には無縁らしい。
「ごめんね、ガイ……。あたし、頑張ったんだけど……」
「問題ないですよ」
ストレッチや筋トレは、今までどおり行っている。
「今日で3日目でしたね。明日からは、また3匹に戻します」
「えぇっ、戻すの? 余分に食べたら、太るだけじゃない。意味あるの?」
あるんだよ、お嬢様。
予想が合っていれば、これで大丈夫なはずだ。
「あ……やせ始めた」
巻き尺でウエストを測ると、また少し数字が小さくなっていた。どうやら停滞期を脱したらしい。
これは、部屋でジャージ姿のお嬢様を見るだけでも分かった。輪郭が、随分スッキリしたからだ。
「ねえ、ガイ? だけどあたし、ゴブリン30匹も余分に食べたのよ? なんで?」
「だからこそ、ですよ」
お嬢様は、それまで1日10匹のゴブリンを食べていた。この場合、お嬢様の食欲をホメるべきか、それともゴブリンの繁殖力をホメるべきかはさておき、ともかく食べていた。
それが、いきなり1日3匹になったのだ。
当然、やせる。
けれども、体が1日3匹の摂取に慣れると、また、やせなくなる。
「そこで、お嬢様の体に言い聞かせたのですよ。『やっぱり10匹食べてるぞ』、とね」
「えぇっと……そうすると?」
「体は、エネルギーの節約をやめます。たくさん食べたことで、『エネルギーは山ほどある』と誤解しますからね。その結果、効率の悪いエネルギーの使い方となり、どんどんヤセていく、というワケです」
本来は、じっくりいくのが正攻法だ。
しかし、体重の変化を求めているお嬢様に、停滞期は存外キツかったらしい。
そこで、刺激的な変化を入れた。
お嬢様のスライムボディは、悪い方にも良い方にも、すごい速さで変わっていく。
とすれば、「本人のやる気」さえ維持できれば、少々後退したとしても、スグに取り戻せる。
お嬢様にあったプランということで、不安だったが、この方法を選んだ。――おくびにも出さないが。
「えっへへ~、やせる、やせる~」
まあ、元気になってくれて良かったよ。
「ねえねえ、ガイ。もっとやせる方法ってない?」
おっと、向こうから話を振ってくれたか。
「では、1セット10回だったスクワットを、2セットに増やしましょう。筋肉を効果的に痛めつけることで、より筋力アップが期待できますよ」
「あー……。そのことで、ちょっと心配が」
「なんでしょう?」
「えっとね……衛兵さんって、みんな筋肉モリモリでしょ?」
「そうですねえ」
「だから……このやり方で筋肉がついちゃったら、足って太くならない?」
私は、お嬢様のおみ足を見た。
「ふふっ」
「あー! 鼻で笑った! ちょっと、不敬罪よ!」
「この国にはないと聞きました」
「それでも、敬いなさい!」
「では、敬われる方におなり下さい」
「ムキーッ!」
その大根足で何を心配しているのやら。
ともあれ、お嬢様は、半月で劇的に変わった。
何よりも、内面が変化した。
積極的にアイディアを出し、ストレッチやウォーキングに取り組むようになった。
「残り……2週間か」
こういうときは、驚くべき変化が起きるものである。