表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/188

35話目 ダイエットの罠

「ええ? まだムリよ。お尻がへたっちゃうモン」

「大丈夫です。ベッドを使います」

「ベッド?」


 そう、王族御用達の豪華なベッドだ。

 見れば、ちょうどいい具合の高さである。


「これを使えば、転ぶこともございません。ゆっくりと、お尻を突き出すような感じで屈んでいって下さい。このとき、ヒザを出さないのがポイントです。ヒザを前に出すと、ヒザ痛の原因になりますからね」

「詳しいのね」

「通った道ですので」


 部活のときにな。


 私は、両手をクロスして肩甲骨に当てたのち、静かにスクワットをしていった。ベッドに腰骨がちょんとつくと、再び立ち上がっていく。


「ゆっくりと腰を下ろし、そこからまた、ゆっくりと最初の姿勢に戻します。これを、1セット10回行いましょう」

「出来るかしら」

「大丈夫です」


 実質の初日よりも、体は格段にやせている。ベッドがあれば大丈夫だろう。


「ではお嬢様、行きますよ? い~~ち」

「い~……ち」

「に~~い」

「んににににに~……い」

「さ~~ん」

「さあああああ~……ん」


  ・


  ・


  ・


「じゅ~う」

「じゆうううう~……う。ぜはぁー、ぜはぁー……」

「よく頑張りましたね、お嬢様」


 何をおいても、まずホメる。こまめな達成感を与えることは重要だ。


 大切なのは、「本人のやる気」である。これを萎えさせてしまっては、たとえ一時的にやせたとしても、決して長続きしない。


「お疲れ様でした、お嬢様。本日は、これにて終了です」

「え、もういいの?」

「はい」


 本当は、1分前後のインターバルをおいたのち、3セットするのが望ましいが、それはスクワットの習慣が根付いてからでいい。

 そして、喜ばせる情報は早めに伝えておく。


「あと、お嬢様。こちらのスクワットは、3日に1回でよろしいですよ」

「え、毎日じゃないの?」


 お嬢様は驚いたらしい。


「てっきりあたし、ずっとやるものだと思ってたんだけど」

「いいえ、筋肉には超回復というものがございますので。詳細は省きますが、筋肉を成長させるためには、およそ48時間から72時間ほどの休息が必要なのです」

「そういうものなんだ」

「はい。筋トレを毎日すると、かえって害悪になるのですよ」


 連日筋トレをやっている人も、鍛える部位を変えることで、きちんと休ませていたりする。この辺も、部活をやっていた頃に聞いた話だ。


「また、あらかじめ伝えておきますが、お嬢様も次第にやせづらくなるでしょう」

「え? まだ目標には遠いのに?」

「はい」


 およそ、2週間から1ヶ月前後で、ダイエットの停滞期というものが訪れるという。

 お嬢様の体は、スライムの中でもとりわけ変化が出やすいのか、やせようと動き出したら、途端に効果が出始めた。悪循環に陥ったときはトコトンまで悪くなったのだが、きちんと導いてやれば、あっという間に変化が出ている。


 だからこそ――、ダイエットの罠にもハマりやすいと言えよう。


「お嬢様の体は、これまで順調にやせてきました。しかし、エネルギーの消費効率が改善されると、かえって体重が落ちづらくなってしまうのです。これは、誰にでも発生します」

「詳しいわね」

「かつて、調べたことがありますので」


 実践したことは一度もなかったがね。


「なので、焦らないようにして下さい。今のところ、すべて想定通り……いえ、想定以上と言っていいでしょう。むしろ、順調すぎたぐらいです」

「そうなの?」

「はい。ですから、体重が落ちづらくなっても、けっしてむやみに運動を増やしたり、過度に食事を減らしたりしてはいけませんよ? かえってバランスを崩してしまいますからね」

「分かったわ」


 お嬢様は、実に落ち着いていた。




 3日後。


「や~せ~な~い~」


 やれやれ。


 焦りは禁物と知らせていても、実際に体重が落ちないと、じれったいものな。

 不安になってジタバタして、それでもなお体重が落ちず、結果、諦めてしまう……。まさしく、ダイエットの罠である。


「なんか変えてよ、ガイ! なんとかしてやせたいの!」

「ふむ」


 本当は、大人しく続けてほしい。

 とはいえ、実際に取り組むのは、このお嬢様だ。

 「本人のやる気」が出てきた以上、それに沿うのが務めといえる。


 ――そうだな。こうするか。


「お嬢様」

「なに? ゴブリンの食事量を減らすの?」

「いいえ、逆です」


 私は両手の指を広げてみせた。


「明日からまた、ゴブリン10匹を食べてもらいます」






「――えぇ~っ!?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ