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28話目 優しい毒

 一口食うまで疑問に思わなかったあたり、私も随分ガイコツになじんでいたらしい。まったく、慣れとは恐ろしいものだ。

 食事がどこから来て、どこへ行くのか? それは、永遠の謎である。


 ともあれ、食事会は続いていた。


「ニャ~、フツーのお姉ちゃん?」


 ミーケが、自分の前に座ったスラヴェナお嬢様を見て笑う。


「前見たときより太ってるニャ〜? フツーというより、おデブスライムだニャ〜」

「あぅ……」


 目に見えて落ち込むが。


「こら、ミーちゃん」


 国王のカット。


「人の身体的特徴を笑うのはダメだよ」

「どうしてだニャ。事実だニャ」

「それでも、だ。本人が気にしていることだと、深く傷つくかもしれないからね。ミーちゃんも、白い耳と白いシッポをカラかわれるのはイヤだろう?」

「うっ……イヤだニャ」

「人がイヤがることをしちゃダメだ。分かったね?」

「はい……だニャ」

「よし、いい子だ」


 まあ、こうなるよな。


 本人が目の前にいると、嘲りや誹りといった言葉ほど、つい出るものだ。

 しかし、この場には国王がいる。

 何がいけないことかをちゃんと説明してくれれば、次第に収まるだろう。


 ――しかし、子猫は白耳と白シッポがコンプレックスだったのか。意外だな、あれがいいアクセントになってると思ったのに。


「ミーケ」


 セレーナも、優しい口調でたしなめる。


「スラヴェナに、まだ謝ってないでしょう? キチンと謝りなさい」

「あう……。スラヴェナお姉ちゃん、ごめんニャ」

「い、いえ……いいのよ」


 かえって恐縮するお嬢様。


「は~あ、甘いぜ、セレーナ姉は」


 ドロテーが鼻で笑った。


「スラも、セレーナ姉も、どっちも白いもんな。アタイに言わせりゃ、ってモンだ」

「ドロテー」


 おっと、ダーヴィドパパ、真面目モード。


「種族差別はダメだ。生まれた場所や種族で差別するなど、為政者としてではなく、人としてやってはいけないよ」


 ぞわり……と、黒い魔力のオーラをたぎらせる。その禍々しさに、ドロテーは即座にひるんだ。――というか、私も怖い。正直トラウマになる。


「まあまあ、お父様」


 セレーナが間に入った。


「ドロテーは竜人ですから、とりわけ『強さ』を意識してきたのだと思いますわ。ドロテーも、そのような意図はなかったのでしょう?」

「あ、ああ……」

「もう、差別はしないわよね?」

「――しねえよ」


 ふてくされつつも、差別はしないと明言した。


 やはり、お嬢様が食事会に復帰したのは正解だった。これを続けるだけで、ミーケやドロテーの意識改革につながるだろう。


 だが。




 だからこそ、




 私はセレーナに目を向けた。

 彼女は、実に礼儀正しく、また、気配りも出来ている。


 であれば、とっくにお嬢様へのイジメをやめさせることも出来ているハズだろう。


 それなのに、


「あー、そーいや親父」


 ドロテーが話題を変えた。


「アタイによー、武道会じゃなくて舞踏会の練習しろとか、鍛練場の男どもがうるせーんだよ。こーゆーのも、性差別とか言うんじゃねーのか?」

「お~っと、ドロちゃん」


 パパは黒オーラを引っ込めて苦笑した。


「それはね……、ん~、キミのためを思ってのことだよ」

「マジかよ~。かったりーんだよなー」


 ドロテーが頭をかいた。


「そーいや、スラも15になったよな? じゃ、社交界デビューだろ?」


 ――なに?


「ドロテー様。その、社交界デビュー、というのは?」

「え? ああ、ガイは知らねえよな。んーっと、イェーディルはよぉ、15才になってから最初の大きな舞踏会で、華々しく社交界にデビューするんだよ。アタイのときも、薄っぺらいドレスとか着てな。ケッ、あんな防御力の低いモン着てられっかよ」

「ん~? パパは良かったと思うぞ~?」

「へいへい、親父はなんでも良かったっつーからな」


 なん……だと?

 社交デビューで、ドレスを着る?


「はっはっは。セッちゃんも、ドロちゃんも、スゴく注目されたからね~」


 国王は朗らかに笑った。


「スラちゃんも、めちゃくちゃ注目されると思うよ~」

「まー、一般的には、ここで評価も決まるもんなー。だけど、王女は王女だし。その点はラクかもな」


 ――なにを言ってるんだ、2人とも。

 気付いてないのか。


 このトドが、ドレスを着るんだぞ!?


 はっ……セレーナか!




 この女が、思考を誘導したのか!!




 私は、トドのお嬢様を一瞥した。


 この姿で舞踏会に出たら、開始とともに評価は決まる。

 ああ、決まるともさ。


「ニャ~、ミーも早く出たいニャ」


 ミーケがうっとりとしていた。


「でも、スラヴェナお姉ちゃんがドレスを着たら、『社交界デビュー』じゃなくて、『社交界デブ』だニャ~」

「こら、ミーケ」

「あう……ごめんだニャ」


 パパに怒られ、ミーケは謝る。

 しかし、今はミーケこそが正しい。


 今のままでは……デビューと同時に、お嬢様は終わる。




 スライム殺すに刃物はいらぬ。甘い言葉を吐けばいい――。


 この女……なんて毒を仕掛けやがる。

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