26話目 姉より優れた妹
「ひとつ――私が知っている、一子相伝の話をいたしましょう」
私は、スライムのお嬢様に「成功」の疑似体験を持ってもらうことにした。
「それは、暗殺拳の伝承にまつわる3兄弟の話でしてね。幾多の強敵との死闘と、深い哀しみを乗り越えたのち、末弟が勝利いたしましたよ」
「え……あたしと同じ、3番目……?」
「はい」
重々しくうなずく。
「お嬢様と同じです」
「だ、だけど……それって、始めから強かったんでしょ?」
「いいえ、弱かったのです。修行したのち、強くなりました」
「でも、それは……お話なんでしょ?」
そう言いつつも、お嬢様復活。
「じゃあ、他の人たちが弱かったとか……」
「いえいえ。継承者候補たちは、生まれた時が違えば、いずれも一時代を築いたとされるほどの強さでございました」
私は、優しく手を置いた。
「誰しも、始めは弱いもの。お嬢様も、今から、これからです」
「――ええ」
ほら、復活した。単純。
けっこう外部要因に左右されるからな、このスライムは。
「そうよね……。3女とか、ちょうどいいよね。とくに、ミーケなんかに負けてちゃいけないわ」
「その意気です」
「姉より優れた妹なんか、絶対ダメよ」
――あれ? 今のセリフ、どこかで聞いたな。
あ。
しまった……。あの話、4兄弟だった。
3男って、他の兄弟に比べて不出来だったからな。忘れてた。
お嬢様を見ると、とても無邪気にベッドで跳ねている。
ま、いっか。
3兄弟。いいね?
お嬢様は、ベッドから下りてズリズリ近寄ってきた。
「それじゃあ、ガイ。ゲストでお食事会に呼ばれてるでしょ? 出たら、ミーケに言っといて」
「――はい?」
首を傾げる。
「お嬢様は?」
「あたしは、ここで食べてるわ」
「他の方は?」
「お父様と食堂で食べてるわ」
「はあ」
頭蓋骨をコツコツ叩く。
「いけませんね、お嬢様。皆様と一緒に食べましょう」
「ダメよ。パパやセレーナお姉ちゃんとかは優しいけど、他の2人がバカにするもの」
ん?
「家族全員が参加するのではないのですか?」
「パパが半年ぐらい前にね、『それぞれの家族の条件は、同じにしよう』って言って、パパとその娘達だけになったの」
母親連中がいないのか。――好都合だ。
「お嬢様が出ておられなければ、条件は不平等では?」
「出席の権利があるだけなの。あたしは、ずっと拒否してるってわけ」
何してんだよ。
「出るべきです、お嬢様」
「ヤダ。だって……ドロテーお姉ちゃんも怖いし、あと、ミーケも……」
お前、ついさっき何言った。
「姉より優れた妹は、いないのでしょう?」
「年齢は勝ってるわ!」
言ってて悲しくならんか、それ?
「あと、体重も!」
はいはい、重いな。脳ミソは軽そうだが。
「だからガイ、あたしを連れて行こうったってムダよ! あなた1人じゃ絶対出せないもの!」
そのとき、食事会の時間ということで、一足先にお嬢様の食事が運ばれてきた。
「やった、ご飯ご飯~」
「あ、すみませんが給仕の方? 食堂へ運び直して下さい」
「ええっ!? 何言ってんのよ、ガイ! ダメに決まってるでしょ!?」
そりゃこっちのセリフだよ。
指示が複数出たため、給仕も戸惑っているようだ。
「ちょっと、給仕!? あたしの方が偉いでしょ!?」
まあ、そう言うよな。
こちらもコレを言うが。
「給仕さん。実はこれは、ダーヴィド国王のご意志なのです。責任は持ちますから、運んで下さい」
「ええ!?」
はい、勝負あり。
一番偉い人の名と、責任を持つと言ったことで、食事は速やかに去っていった。
「ヤダー、ヤダー! 絶対行かない!」
「では、お嬢様を運びます」
「ガイじゃ無理よ!」
「そうですね」
53貫は押せんな。
「ですから、鍛練場の衛兵に運んでもらいます。10人がかりでね」
「食堂に、行く……」
やれやれ。
今のところ、姉は妹に完敗だな。