25話目 「3」の女
ドロテーママとの試合? ああ、キレイに負けたよ。無理ゲーがすぎる。
「ほほほ……。リセットできるスケルトンは貴重じゃからのぉ? 修復も容易じゃし、妾も、良きシェイプアップが出来たわ」
つまり、まだ余裕がある、と。――バケモノだな。
試合後の休息中、ドロテーママが小声で話してきた。
「娘との一戦目……、武器有りの試合にしてくれたこと、礼を言うぞえ」
「いえ。あれは、私の隠し武器でございますよ」
「ほほ……。二戦目では自分の手を外したのに、かえ?」
バレてるな。
「ドロテーだけが武器を使い、素手の相手に負けたとあっては、著しく評価が下がるからのぉ。あのような孫の手で、傷も付けず、冗談のような勝ち方をすれば、ドロテーの株はそのままじゃ」
「――ご賢察です」
「ほほほ、そなたもな」
ママはぐっと顔を近付けた。
「しかし、気を付けぃよ? カンの良い上級兵は、かえって手心をくわえられたと激怒するものじゃぞ?」
「ええ、ですから、母君が手合わせをして下さり助かりました」
たとえ「練習」という形であれ、王女にどこの骨とも分からぬ者が勝ってはいけない。ましてや、そのまま終わっては。
私が、こてんぱんにドロテーママにのされることで、キッチリとケジメがつくのだ。
娘をあの時点で諫めてくれたから、期待はしていた。だが、単に勝つだけの苦労だと考えると、やはり理不尽である。
「妾が圧勝することで、武闘派のメンツも保たれるしのお。――面倒臭いものじゃ」
私は黙って一礼した。
その後はまたフリーの鍛錬となった。
男衆だが、実力を認めた者へは、手の平返しも早い。何より、ドロテーママが一目置いてくれたのが効いたようだ。
一時間ほど汗を流し……てはいないが、様々な獣人や竜人と対戦したのち、私は鍛練場を辞することにした。
「ほほほ。ガイよ、妾の陣営に来ぬかえ? 厚遇いたすぞ?」
「まこと光栄の至りですが、ダーヴィド国王からのお達しで、スラヴェナ王女様のお付きにと」
「あのスライムか。――修羅の道よの、気に入ったぞえ」
あえて過酷な場所に身を投じる者には、好感度アップか。――いや、正直、それは狙ってなかった。
スライムのお嬢様の部屋へ戻ってきた。
「スラヴェナ様、ただいま戻りました」
「お帰り、ガイ。――だ、大丈夫だった?」
「ドロテーママのシェイプアップに付き合わされましたよ」
「え? コルネリア様に? そ、それって……!」
「ああ、ご心配なく。ドロテー様と男衆の見る目は変わりましたから」
正確には、ドロテー自身はあまり納得してない様子だったがな。
他のメンバーに母親まで認めたから、不承不承といったところか。
「これで、ひとまず妹君と姉君にお会いしましたね」
「うん……。えっと、すごいね、ガイは……。あっという間に自分を認めさせちゃうんだもの……」
お嬢様は、へにょっと凹んだ。
「あたしは……落ちこぼれだから」
ああ、またか。
「お嬢様」
「ううん、いいの……。最近は、セレーナお姉ちゃんも優しいから……。ガイなら、どの王女様とも仲良くやってけるよ……」
おや、初めての名前だ。
「セレーナ様、というのは?」
「魚人のお姉ちゃん。長女ね。で、ドロテーお姉ちゃんが次女で、ミーケが4女なの」
ほほお。
「つまり、お嬢様は『3』女なのですか」
ならば問題ない。
3はラッキーナンバーなんだ。
持ち上げる逸話は……山ほど知っている。