表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/188

24話目 孫の手って理不尽

 鍛練場の真ん中にある、一番豪華な正方形の中で、私は竜娘のドロテーと向かい合った。


「あ、先に言っとくけど、自分から場外いくとか、イキナリ投了みたいなダッサいのはナシな! 『アタイが王女だから攻撃できませーん』とか、そんな配慮したらブッ飛ばすから!」


 それも手だが、今回は使えんな。

 といって、勝ちすぎたりしたら、ドロテーママや周りの男衆が黙っていないだろう。


 ――あくまでも、これは、「ドロテーが勝つ」ことを前提に組まれた試合だ。その証拠に、私が、素手どころか骨までさらけだしてるのに、誰も「武器は?」などと尋ねてこないしな。

 やれやれ。この場では、筋肉こそがモノを言うとしたら、私の体は発言権ゼロだ。


「よし! じゃあ行くぜ! 始め!」


 自分で開始を告げたドロテーは、木剣を持って襲いかかってきた。スピードもパワーもありそうだ。


 なので、まともに戦わない。


 私はバラバラになった。


「はぁ!?」


 呆気に取られたドロテーが、とまどっている背後でリセットを行い、体を再構築する。


「お嬢! 後ろに!」

「えっ!?」


 周りは口出し禁止だろ。でも遅いがね。


 腹から孫の手を出し、ピタリとドロテーのうなじに当てる。


「これで勝ちです」

「――なんだよ、ガイコツ! そのワザは!? しかも、孫の手って!?」

「ええ。『手』ですよ」

「理不尽だろ!?」


 なんでもありはどこ行った。


「アタイのシマじゃノーカンだから!」

「では、お嬢様も武器をお捨て下さい。私も『孫の手』を使いましたからでしたが、次は使いませぬゆえ」

「うぐっ……いいぜ! 勝負してやらぁ!」


 やれやれ。


 すぐさま第2戦が始まった。ブンブンと拳を振ってくる。


「すぐにノックアウトしてやるぜ!」


 ああ、たしかに速い……が、それ以上にケンカっ早い。コンビネーションという単語を知っているのかアヤしい大振りだ。

 バラバラ&リセットを繰り返すと、口々にヤジが飛んできた。うるさいな。

 思わず男たちを一瞥した。それと同時に、やるせなさも胸に去来する。


 ――誰も、ドロテーに「技術」を教えて来なかったんだろうな。


 弱い相手なら、現状のままでも倒せる。強い相手なら、ドロテーは本来勝てないだろうが、その場合、相手のほうが色々と考える。

 「彼女の親は、ドロテーママとダーヴィド国王である」、ということを。

 ヘタに勝ってしまうより、「ははは、ドロテー様はお強いですなあ!」とご機嫌を取った方が、うまく生きられるのだろう。

 彼女が、戦闘の真実を知ることはない。彼女が戦闘に立つとき……そんなときは、この国が滅亡しているだろうから。


「おい、骨! 逃げんなよ! 当たりにこい!」


 それはイヤだが、近づいてやるかな。

 大振りパンチをかわし、引き手と釣り手をガッチリと押さえて組む。


「お? 骨がアタイと格闘するってのか!? 面白い、受けてやるよ!」


 上腕骨をもってぐいぐいと押してくるので、あえて過剰に引き、出方を見る。


「へぇ……? ナニたくらんでやがる!」


 ヤバさを感じたのか、ドロテーは後ろへと体重をかけた。足のかかとで踏んばっている。


 ――そうかい、ならコレだ。


 すかさず体重を前にかけ、ドロテーの右脚の裏をキレイに刈り上げる。


 バターン!


「――え?」


 倒れたドロテーは、何が起きたのか分からないといった様子だ。

 私は素早く左腕を切り離し、それで喉元にさわった。


「オシマイです、ドロテー様」

「は……はぁ!? お前、こんな足を払っただけのワザで終わるかよ!? アタイはピンピンしてるだろ!?」


「ドロテーよ、そなたの負けじゃ」


 おっと、ママ登場。


「そこの骨は、そなたの『力』の動きを見ておった。力がどこに掛かっておるかをのぉ。――ワザについては得体がしれぬが、そなたが倒れて、骨がノドに手をつけた。先ほどは孫の手、今は切り離した手じゃがな」

「だから、理不尽っ……!」

「戦場ならば、剣が刺さっておるぞよ? 突き付けられた以上、終わりじゃ」

「ぐっ……! で、でも……」

「ほほ、ドロテー? 自ら告げたルールを破るのかえ?」

「うぐっ……」


 ドロテーは、がっくりとうなだれた。


 母親がゆっくりと近づいてくる。


「骨よ。そなたの名は何と申す?」

「ガイギャックス……ガイとお呼び下さい」

「では、ガイよ。今のワザは何と申すのじゃ?」

大外刈おおそとがり、と申します」

「ふむ。――技の体系があるのじゃな?」

「はい」


 鋭いな。さすが戦闘種族。


「このような武道の技を、柔道と申します」

「JUDO……早速、取り入れるかのぉ」


 即決かよ。強くなることには余念がないな。


「さて」


 ドロテーママは、足のストレッチを始めた。――ってオイ、何してんだ。


「ガイ。今度は妾と手合わせじゃ」


 おいおい。


「お戯れを」

「ほほほ。良、い、な?」

「――かしこまりました」


 受けなきゃ殺すと、目が言ってた。


 まったく……理不尽な伏魔殿だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ