23話目 格闘バカの竜少女
「よお! 出てきたな!」
扉を開けると、そこには浅黒い肌の竜人少女がいた。
16、7才といったところだろうか。身長は私よりやや低いぐらいで、175cm程度。大きな2本の角を生やし、シッポも黒々と大きい。
「親父のゲストなんだろ!? スライム助けたとか聞いたぜ。なあ、あんた強いんだろ!?」
おう、なんという脳筋。
しかもこの少女、義理とはいえ、妹であるお嬢様をスライムと呼んだぞ。名前でなく。
おそらく、弱いものに興味がないんだろうな。だから、彼女にしてみれば、単に事実を述べてるだけなんだ。ミーケの時と違って、表情に嘲りの色はないし。
だが……そういうのもタチが悪いんだよ。
「アタイはドロテー! 知ってるかもしれねーけど、王女だぜ!」
「お初にお目に掛かります、ドロテー王女様」
ゆっくりと一礼した。
「私はガイギャックス。ガイと……」
「おう、ガイ! かったるい話はあとだ! 手合わせしようぜ!」
話を聞かない王女ばかりだな。
指でちょいちょいと誘って、後をついてこいと示すドロテー。長い緑髪は、後ろで縛って垂らしている。――むぅ、所々好みの要素はあるんだが、ガサツっぽいのは苦手だ。
鍛錬場では、竜人、獣人の衛兵たちが武器の技を競い合っていた。
「よお、みんなー」
ドロテーが手を挙げると、体格の良い男達が口々にあいさつする。
「ドロ様が、まぁた相手を引っ掛けましたなー」
「男を引っ掛ける術も磨くべきでは?」
「武道会でなく、舞踏会の練習もすべきですぞー」
「お前ら、アタイにうっさいぞ!?」
ドロテーが私を振り返る。
「ったく……こいつら、非番なんだけどなー。みんな戦いが好きで、ここに入り浸ってんだよー。格闘バカだ」
あんたもな。
ここの連中は、誰も彼もが筋肉の鎧を帯びていた。
人いきれで、むわっとする。スケルトンでなければ、汗臭さも感じただろう。
おっと、奥の一角には女達もいた。とりわけ、今戦っている竜人の女は、一回りデカい男相手に優勢で戦っている。
「あ、お袋も戦ってる。おーい、お袋ー!」
母親かい。む、こっち向いて手を振った。
「スキあり!」
相手の男が木剣を振り下ろそうとするけど、すかさずシッポで跳ね上げる。
スパーン! ――ドサッ。
勝負ありだった。
「ほほほ、良きシェイプアップになったぞえ」
「はぁっ……はぁっ……稽古、あざぁッス!!」
赤いタンクトップにホットパンツをつけた、黒い竜人のドロテーママは、タオルで優雅に汗を拭きつつ、こちらへやってきた。
「陛下のゲストとして呼ばれたそうじゃの。ウワサは聞いておるぞよ。陛下が本気を出された、とものぉ」
あー、うん。ウソじゃないな。実態とも程遠いが。
「妾たち竜人や獣人たちは、強き者に目がなくてのぉ。その戦いの技を、ぜひとも披露してほしいのじゃ」
ここは鍛錬場だ。つまり、実戦ではない。
引けば、弱いと侮られるだろう。
“ああ、骨は大したことないぞ。だって、スライムに付いているぐらいだし”
こうウワサされる展開が、目に見えるようだ。
「みんな! アタイが戦うからな!?」
ドロテーが周囲を見渡した。
「ルールは、相手の武器か手が急所に決まったら負け。それ以外はなんでもあり。――たまーにやり過ぎる時もあるから、先に謝っとくな、骨! ごめん!」
やはり拒否権はないか。
「はっはは、ドロのお嬢が、本気で行かれますか~?」
「母君の次ぐらいにお強いじゃないですかー。我らが先に……!」
「ダメに決まってんだろ!? 消耗させた相手に勝っても嬉しくねーもん! てか、お前ら、自分が戦いてーダケだろ!」
男どもの野太い笑い声が起きる。
「なーに、アタイなら楽勝だぜ!」
おやおや。そういうのは、フラグって言うんだよ。