表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/188

20話目 フツーのお姉様

 城へ向かって【高速飛行】をしていたが、近づくにつれ、スライムお嬢様の反応が急激にニブくなっていった。


「お嬢様? お城の話などお聞かせ下さい」

「ん……うぅん……」


 声も小さく、のっそりとしている。やっと聞きとっても、拒絶の言葉だけだ。今までが明るかっただけに、落差がいちじるしい。


 “夢が終わり、悪夢が始まる”


 そんな態度を、全身で表しているかのようだ。


 国王はため息をついた。


「僕には、4人の妻と4人の娘がいてね。それぞれ、分け隔てなく愛情を注いでいるつもりだったが……、スラヴェナの母、マーサが亡くなってからは、城でのスラヴェナの居場所が自室だけになってしまっているんだ。家族や城内の者には、よく言い聞かせているから、僕の目の前では彼女への悪さをしないんだが……」


 国王は歯切れが悪かった。


 だが、合点もいった。

 この国王なら、1家族の問題であれば容易に収められると思ったからだ。


 4家族が、全て仲良しこよしというのは空想である。

 とくに、政治的思惑が絡めば、ドロドロであろう。


 それぞれに派閥を作ると想定した場合、母を亡くし、不出来な存在と目されているお嬢様に味方するお人好しなど、ほぼいない。

 さらに、そのお人好しも、プレッシャーをかけられた結果、別派閥に鞍替えしたり、辞めさせられたりしていくだろう。

 結果、ますます孤立する。


 私に命を託した事で、よく分かった。

 今のお嬢様は、崖っぷちにいる。


 私は国王を見た。

 お嬢様の父親は、誰よりエライ。

 だから、「無力な自分」でも甘えられた。

 父も、それが分かるからこそ、べたべたに娘を甘やかした。 


 スライムのお嬢様は、その後、城に着くまで、自分から喋ろうとはしなかった。


 ――やれやれ。これなら、クソ親子の脳天気さが続いてくれたほうが、万倍マシだったよ。




 イェーディルの城下町を迂回して、城門前へと着地する。

 国王は、自分が城を案内するといってたが、すぐさま男の牛人がきて、執務に引きずられていった。


「ごめんね~、ガイ君」

「いえ、お気になさらず」

「スラちゃんの部屋で待機してて~」


 実に悲しそうな目でドナドナされていった。


「それでは、部屋へ案内してください……お嬢様?」


 反応の薄いスライム姫をつつくと、「あ、ええ」と答える。


 ――これは、重症だな。


 皮肉なものである。牢屋で出会ったが、お嬢様の精神は生き生きとしていた。


 私はぐるりと辺りを見渡した。頑丈な石壁づくりに、立派な柱。実に見事なモノだが。


 ――この城こそ、巨大な牢獄だ。


 私は、腹からボールを取り出して、ジャグリングを始めた。

 だが、少しやっただけで手からこぼれてしまう。


「ヘタクソね……ガイ」

「肉がついていた頃はうまかったのですよ?」

「ウソ……元からヘタだったんでしょ」


 当たりだよ。

 まあいい。お嬢様の反応が少しはあった。


 ボールが城内の廊下をコロコロと転がる。


「ったく……しょうがないわね」


 お嬢様が、スライムの体でよじよじ取りに行く。かたつむりよりノロいんじゃないかというほど遅い。

 そのときだった。


「ああ~! フツーのお姉様だニャ~!」


 背後からの幼女の声で、お嬢様の動きは完全に止まった。

 私を追い抜いていき、お嬢様をも追い抜かす。

 10才ぐらいの猫人だろうか。ボールは、彼女が代わりに拾う。


「きゃはは! どんくさいニャ~!」


 褐色の肌に黒髪のショートカット、そして白い猫耳とシッポ。なかなかに可愛らしいが、笑顔には嘲りの色が見える。


「スゴ~いミーより、断然遅いニャ~!」

「えっと……うん。ミーケより遅いや、ハハハ……」


 ああ、たしかにお嬢様は遅かった。

 何せ、今まで見た速度のだ。


 ――肩書きが人を作る、というのを聞いたことがある。

 元々は社長の器でなかった人も、選ばれてからは次第に社長らしく振る舞い、ついにはどこに出しても恥ずかしくない社長になる、という話だ。

 サラリーマン、学生、自営業。はたまた、夫、妻……。肩書きというのは、無数にある。


 今のお嬢様は……「どんくさいスライム」という役割を、


「そうそう、フツーのお姉様? 今度は、そこの骨がお付きになるのかニャ?」

「えっ……そ、それは……」

「スゴ~いミーが、採用試験してあげるニャ♪」


 スゴ~いワガママ猫は、許可も取らずに私の右手を握った。


「フツーのお姉ちゃんにふさわしいお付きかどうか、スゴ~いミーが判定してあげるニャ♪」

「あ……」

「アァ~、なんてスゴ~くエラ~い妹だニャ♪ ニャ~、それでいいニャ、フツーのお姉さま?」

「あ……う……ハイ」

「決まりニャ♪ 行くニャ、骨」


 幼女に引っ張られていった。


 やれやれ。条件だけなら楽しいシチュエーションのハズだが、こうまで胸クソ悪くなるとはな。


 スゴ~くエラソーな猫娘の子守り、か。

 これは、再教育のしがいがありそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ