2話目 気付いたときには死んでいた
300kgから3kgか。ふふふ、上々だ。キリも良い。門出にふさわしいナンバーといえよう。
しかし、受付の青鬼は、ますます顔が青ざめて見えた。
「あ! こ、これは……」
「おや、選んではいけませんでしたか?」
「い……いえ。大丈夫です。けれど……」
「ならば問題ないですよ。すぐに死ぬ運命だったとしても、私に悔いはありません。私が選んだことですから」
「そうですか……では、ひとつだけ。強く生きて下さい」
「……? ありがとうございます」
なんだろう。選んだ者には、何かしら、人生に強烈な壁でもあるのだろうか。あるいは、粉骨砕身しても破滅が待っているのか。
まあ良い。それもまた、人だ。
私は、紙を手にしたまま、転生の扉を開けた。
「――む」
意識があった。
おかしい。転生したら、前世の記憶などなくなるハズ。少なくとも、前世ではそうだった。
おかしいと言えば、体格も妙だ。
明らかに、赤子より大きいのである。
身長にして、180前後といったところか。
私は体を起こそうとした。そのとき、腕に強烈な違和感を覚える。
「腕が……」
ない。
――いや、正確には。
腕の肉がない。
骨だ。
「ぷっ」
私は、不覚にも大笑いした。
なるほど、スケルトンか。道理で、大人の体格でも3000gだったワケである。
受付の鬼が、強く生きろと言っていたのは、この事だったのだろう。
転生したと思ったら、すでに死んでいたとはな。
なかなかどうして、皮肉のキツい転生先である。
私はゆっくり立ち上がると、辺りを見回した。
ここはどうやら、鍾乳洞の中らしい。ひんやりとしており、光源はない。なのに、見えているワケは……っと、ああ、スケルトンに「なぜ見えるか」など、愚問だったな。
本来ならば、命もなければ、目玉もないのだ。見えていることに感謝しよう。
私は、カチャカチャと歩き出した。
まずは、ここがどこかに通じているかどうかを調べるとするか。
その直後。
「カァーッ!」
鋭いひと鳴きとともに、私の視界が急に浮かび上がった。
「なにっ!?」
大きなカラスの仕業らしい。私の頭をつかんで飛び上がっている。
むぅ、カラスが3kgを持ち上げるだと? 怪力すぎるだろう。
――いや、待て。骸骨が動く世界だぞ? カラスとて、妙な力があるやもしれない。
すかさず手で振り払おうとしたが、スカッ、スカッと空を切るばかりだ。
おかしい。さすがに、頭をつかむカラスの位置ぐらいは分かるぞ。
なのに、追い払えないだと……?
――もしや!?
今度は、下を見る。
そこでは、首から下だけのガイコツが、骨張った右手をスカッ、スカッと振り回していた。