19話目 腹がパンパン
というわけで、【高速飛行】のおかげであっという間にソネの町へとやってきた。
「町中では条例あるからね、むやみに飛んじゃダメだよー」
「パパは飛んでもいいんでしょ?」
「そりゃ、みんなを助けるためならね。普段から破っていいわけじゃないさ」
あー、その辺の考えは、上に立つ者として大事だな。
町に入ると、たしかに多様な種族でごった返していた。
「えっとね、ガイ? 翼があるのがハーピーで、その隣にエルフ、耳ひれが魚人、舌をチロチロ出してるのが爬虫人ね。ちょっと離れて、背が低いけどガッシリしてるのがドワーフ。その隣に、ガイみたいなスケルトンがいるでしょ? あ、でもやっぱ獣人が一番多いかな? ほら、あそこのグループがみんなそうよ? 狼、虎、牛、猫の獣人」
矢継ぎ早にありがとう、お嬢様。
まあ、大体ファンタジーでよく見聞きする種族ということだな。
「ハハハ。ここはいつ来ても賑やかだな~」
国王はテントの立ち並ぶ市場を、楽しそうに歩いていった。
ときおり気付く人がいるので、笑顔で手を振っている。サインについては、「あ~、慈善事業の資金にあてるから、ぜひ公式店で買ってくれ」と返していた。なるほど、うまい手だな。
親子プラス私という一行は、両側にテントの並ぶ市場をゆっくりと見て回った。
「ねー、パパー、これ買ってー」
「動くオモチャかー。よし、買おう!」
「あー、孫の手がある~。買ってー」
「ハハハ、買うぞー」
「毛玉のモフモフ買ってー」
「オッケー、オッケー」
「あ! あの人、お手玉がスゴーイ! あのボール買ってー」
「3つで1組か? よしよし、パパに任せろー」
「ねぇ、パパ。これ、鈴の付いたお守りだって。買ってー」
「ははは。よーし、パパ店ごと買っちゃうぞー」
やめい。
あと、地味に私が荷物持ちにさせられている。――いや、正確には「荷物持ち」ではないな。「荷物内蔵」というべきか。
「ああ、ガイ君の骨格内部の空洞に、色々仕込めるようにしといたからね。【念動】と、【連動】と……まあ、色々なワザだ。入れてるものは【透明】にもなってるから、隠し武器や道具など、そこに入れるといい」
「ありがとうございます」
魔法に長けた国王が、手ずから施してくれた技である。
聞くだけでも、スゴいとは思う。
今は、クソ親子の雑貨入れにしか使われてないが。
「あのお、国王陛下。ご公務などはよろしいのですか?」
釣り竿を手にされたとき、さすがに私もストップをかけた。――やめろ、それは入らん。
「ハハハ、いや~、せっかくの親子水入らずだしなー」
「お嬢様は水玉です」
「おおぅ……。水を差すねえ、キミ」
「それに、『水入らず』とは、内輪の者を指す言葉です。私がおりますゆえ」
「な~んだ、そちらは問題ないさ」
ダーヴィド国王は、しっかりと私に向き直った。
「君は、娘を救ってくれた。いわば、家族のようなものだよ」
慈愛に満ちた表情。
この王様は、実に多彩な顔を見せてくれる。
「――ありがとうございます」
「あれっ、それだけ? 君、ドライすぎない? 王様だよ、僕?」
「すみません、骨ですから」
なるほど、こういう資質が王には必要なのだろう。
天然の人たらしだ。
お嬢様は、まだまだ見て回るというので、国王と私は近くの公園で休んでいた。
まったく、山でバテると言ってたのは何なんだ。
「ハハハ。女子の買い物への興味は、男子のそれとは別物さ」
国王は首や肩をもみほぐしていた。
「ガイ君。キミは生まれたばかりと言ったが、一通りの知識もあるし、礼儀正しい。何よりスラヴェナを助けてくれた。――良かったら、娘の側仕えをしてくれないか?」
「え? ――即断は、出来かねますが」
「ああ、考えてくれるだけでいいよ。いずれにせよ、キミをゲストとして招くことは大決定してるからね」
「恐縮です」
そこへ、お嬢様が戻ってきた。
「パパー! また買ってきたわー!」
「ん~? おおー、吹き戻しか。懐かしいな~」
吹き戻しは、日本だと淡路島が生産量トップだったな。淡路島はタマネギが有名だったが、実は吹き戻しの一大生産地でもあると聞いたときは、驚いたものだった。
――まさか、異界の地にもあるとは。
国王が、みずから息を吹く。
「ふ~っ!」
ピー。
「ふ~っ!」
ピー。
「あははっ! パパ、面白~い!」
うるさいよ、タマネギ頭じゃないスライム。
雑貨のせいで、私の腹の中はパンパンだ。