188話目 1人はみんなのために
文献にあたったり、ブノワ師に聞き取り調査をしていたが、意外な所からイーディアスを打倒するヒントが見つかった。
「これって、夢王子が過去に行ったときのエピソードですよね?」
ミシェルさんである。
「洞窟の奥で、アベル王子に自分と同じ姿の影がとりついて、封印してる間に解除方法を探すって下りが、そっくりです」
「本当だわ……ミシェルさん、スゴイ!」
お嬢様に褒められて、ミシェルさんは嬉しそうだった。
私も嬉しい。解決策がまったくなかった所に、降って湧いたのだから。
しかし、ピエールは渋い顔をしていた。
「ミシェル。いかに似ているといえど、所詮は大衆娯楽だぞ。世界の危機に、小説とは……」
「だけど、偶然の一致とは思えないのよ、お姉ちゃん」
ミシェルさんは力説した。
「このお話ってね、元々は月に魅入られた子に向けて書かれてたの。作者さんは、自分の弟に向けて、こういったお話を書いてたのよ。その人も、わたしと同じ症状だったって」
「ああ、それはよく聞いたとも。その弟さんは、お前以上に魅入られていて、最後は眠ったまま衰弱死したことも知ってる」
うーむ、ヘヴィな創作秘話だ。
なるほどな、王子が夢を見て大活躍するさまは、今は亡き弟さんに捧げられていたのか。ミシェルさんに響いたのも納得である。
――ん、待てよ?
「ミシェルさん。もしかしてその弟さんは、予知夢の力も凄かったのでしょうか?」
「ええ、ガイさん。おそらくそうだと思います。ですけど、当時はまったく分からなかったと思うんです。彼が亡くなったのは、わたしが生まれるずっと前だったそうですし」
うわあ……だとしたら、単に悪夢じゃないか。
当時言ったところで、誰も気にしなかっただろう。それこそ、おかしな話で片付けられてしまったハズだ。
「そんな弟さんを、作者さんは、『夢を怖がらなくてもいいよ』ってなだめつつ、見た夢で事件が解決するようにお話を作ったんです。――見せてた当時は、アクションものだったらしいですよ」
「えー、知らなかった!」
お嬢様、完全に観客モード。
「ミシェルさん! それって、何巻のあとがきに載ってました?」
「えっと、ファンブックの『落ち葉を拾う』の項目です」
「ファンブック! 盲点だったわー。やっぱり買う!」
あー、うん。買ってくれ。
推理ものになってからも、夢を見て解決する構図は守っているらしい。その中に、当時聞いていた夢のエピソードを混ぜていたそうだ。
「弟さんは、最後に大事な夢を見たそうです。世界が危機に瀕したとき、助けになる夢を。――この前までは、違うのかなと思ってましたけど、ガイさんが骸骨王に汚染されたと聞いて、『あ、同じ姿だ』と」
ふむ、すごいインスピレーションだな。よく結びつけてくれた。
「さっそく、作者さんに連絡を取りましょう」
ピエールが、エルフ国の出版社に魔具で連絡を入れた。
『え? イ、イェーディル城!?』
名前を出すだけでサクサク進む。うーむ、城チートだ。
事情は明かさず、単にスラヴェナ王女がファンだから話をしたいと告げるよう頼んだ。
しばらくして連絡が来る。
『ええっと、何やら、直接会ってお話がしたいとのことでして……すみません!』
「いえ、あくまで1ファンとしての行動なので、お気になさらず」
作戦タイムに入った。
「あたし、これって『何かを渡したい』んだと思うわ」
お嬢様はアゴに手を当てた。
「根拠は、敵の妨害をかいくぐって重要な証拠を渡す人が、小説に出てきたからよ!」
「なるほど」
それなら、可能性が高いな。
渡す品があるのに「渡す」と言わない理由は、ネクロ教団を警戒しているためだろう。
シニャーデ島の新聞がやられていたのだ。出版社にだって、ネクロと通じている奴がいるかもしれない。
「分かったわ、ピエール。会いに行くから、どこにいるか聞いて」
「かしこまりました」
ピエールは保留を解除した。
そして、私たちは再び旅に出た。
旅の仲間は、お嬢様、モーフィー、ピエール、ピルヨ、そしてもう1人。
「ガイのためなら、行くだわさ!」
残念ロリこと、ロザンネである。
「そんなピンチに頼ってくれないなんて、いけずだわさ! ううん、気骨溢れる男だわさ!」
あー、骨は見えてるな、うん。骨だけはな。
お嬢様が色紙をひらひらしてみせる。
「ねえ、ガイー! 本当に3枚しか持っちゃダメー!?」
「向こうで買って下さい」
「ケチー」
おいおい、本心からファンのつもりで行くなよ。
まったく……。ちょっとホメたら、すぐこれだ。
作者さんはエルフの国にいると言う。
また2週間ほどの旅だ。
弟さんだが、満足して亡くなったらしい。
作者さんの処女作が世に出る少し前だったという。出版された本にサインしている所を夢に見たそうだ。
人の幸せを喜べる、優しい人だったのだろう。
私も及ばずながら、少しずつ恩を返していこうと思う。
みんなのために。
大丈夫、何があっても乗り越えていける。
みんなの力を借りられるなら。
今までお付き合いいただきありがとうございました。
骨のお付きとスライムの王女様の話は、これにて終了とさせていただきます。
骨は、前世を記憶したまま転生しましたが、その因縁も抱えたままとなりました。
なので、人には「出来る」と主張しますが、言うは易し。骨もたびたび「出来ない」と考えます。
そんな奴が、自身の因縁と折り合いをつけられたら。
まあ、ただのいい性格した骨になっちゃいます(苦笑)。
王女様も、とても成長しましたからね。
困難が乗り越えられるという目処が立ったので、終了です。
私自身も、この作品に色々と教わりました。
一番ムリだと思ったのは「ノーストックで連日アップ」です。
なので、それを目標の1つとしました。
たびたびダメになりましたが、日数計算で行くとセーフです。はい、言い訳です。
「ムリ、無駄、不可能……。それは、『その人にとって』出来ないと言っているに過ぎません」
重い言葉です。書いていて、自分に刺さってました。
この文言に負けぬよう、新たな挑戦をしたいと思います。
読者のみなさま、最後までお読みいただいたうえ、あとがきまでお読み下さり、まことにありがとうございました。
それではまた、次の作品で。




