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私はコレでやせました(300kg→3kg) ~悪役令嬢、育成計画~  作者: ラボアジA
9章 真相編

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186/188

186話目 私は私の道をただ行くだけ

 いつの間にか、川岸に立っていた。

 遠くで電車が通っている。あれは総武線か。


「桃矢さん」


 瀬玲七は、私の体に抱きついてきた。

 それで気付いたが、今の体には肉がある。300kgではない。75kgほどだ。


「ごめんなさい。アイツ、悪い奴だったの。やり直しましょう」


 ――ふふっ。バカバカしい罠だな。

 少し心が動いたあたり、やっぱり男はダメなものだ。


「消えろ」


 その途端、瀬玲七は豹変した。


「バーカ! あんた、ナニサマのつもり!? あんたがやった手柄ってのは何もないのよ! 全部誰かの受け売り! あんたが自分で何かをやったわけじゃないわ! 結局あんたは1歩も進めない! 何ひとつ出来やしないのよ!」


 正直に言おう。

 少しは傷ついた。

 だが、かつてに比べれば微々たるものである。


「瀬玲七。君に認めてもらわなくても結構だ。私は、私の道を行くだけだからな。君とはいっとき一緒に歩いて、そして道が離れた。それだけのことだ」

「なに気取ってんの!? エラそうな口を利くな、デブ! 何も出来ないあんたは、そこでブヒブヒ言ってクタばりゃいいのよ!」

「――1つ、言っておこう」


 私は人差し指を立てた。


「人はみな、何も出来ない状態から始まる。この世に生を受けるときの体も、譲り受けたものだ。言葉も、知識も、それら全てに、何らかの土台がある。その上に立って、少し歩みを進めて、次の人に渡す。そういうものだ」

「ソレも受け売りでしょ!?」

「そうだ。なかなか良い考え方だと思ったので受け入れている」


 私自身は取るに足らぬ存在かもしれないが、が土台として積み上がってきて、そこに私は立っている。


 ならば。


「少しでも人間として歩けたら、それは人類全体にとって、プラスとなるはずだ」


 私は、ふと指を見た。肉のついた体を動かすのは久々だ。死ぬ前は、ありすぎて動かせなかった。


 ――まやかしだな。


 骨の体を意識すると、手の肉は消え失せ、むき出しの骨となった。頭蓋骨を外してみて、完全に「自分」を取り戻す。

 瀬玲七を無視して、川沿いの道を見回した。


「イーディアスよ。取るに足らぬ人間という論理で魂を砕くつもりなら諦めろ。私は地球の偉人のバトンを受け継いでいる。私をツブす気ならば、彼らの知恵を借りて相手になろう」

『ファファファ……良かろう。もはや止めたりはせぬ』


 再び暗黒の空間に戻った。眼前には瀬玲七の姿があるものの、目だけが赤い。そいつに入ったか。


『代わりに……吾の一部を植え付けておこう』


 イーディアスは、おもむろに手を差し出した。その途端、黒く温かなベールが体に覆い被さる。たちどころに消失するが、リセット以外に、異様な力が備わった感覚がある。


『吾とお前は一心同体。この力は、困ったときに使うが良い』

「そして、使えば使うほど、お前の影響力が増すわけだな」

『ファファファ……どんどん強くなると考えよ』

「私ではない存在がな」

『おや、心外かな? 吾は誰よりも、お前が強くなるのを願っているぞ? 頼りにされ、それに答えようとすれば、次第に役目が重くなる。それに答えきれなくなったとき……吾を頼る。人間は脆いものだからな』

「そんな人間に、かつてやられた気分はどうだ?」

『ファファファ……そやつらは、もはや居らぬ。復活すれば世界を支配できるとも。夢のとおりにな』


 私の意識は薄れていった。




 目覚めると、お嬢様たちが心配そうな表情で見ていた。


「ガイ……」

「お嬢様」


 ゆっくり体を起こそうとしたら、サッとモーフィーが間に入った。


「駄目ですワン! 乗っ取られているかもしれないですワン!」


 ああ、それはナイスだ、モフモフ。さっきの幻覚の件もあるしな。

 こっそりと0、3、0、3の指運動をした。――よし、私の意志で動かせる。


 お嬢様が、咳払いをした。


「ねえ、ガイ。ゲシェンクのカードって、何枚?」

「33枚です」

「一番小さい数字は何?」

「3です」

「――これ本人だってば!」


 一気に空気が弛緩した。






 戻ってこれたことに、私は安堵した。

 転生しても、ずっとオマケの感覚だった。

 動けなくなることには恐怖を覚えたが、それは自分のためだった。

 カンタンに命を投げだそうとしていたのも、未練がなかったからだ。


 今は違う。


 尊いものは色々できた。

 それを守るため、私は覚悟する。


 ピエールが、やにわに厳しい顔つきとなった。


「王女様……。ガイを【生命感知】で精査したところ、彼以外の者が入り込んでいる形跡がありました」


 ああ、やはりか。

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