182話目 あれも死体、これも死体
薄暗い部屋のなか、そのドワーフは目を爛々と輝かせていた。
「おぉ、おぉ! カーマインめ~、一足先にイーディアス様の元に行きおったわ、ふぉっふぉふぉ~!」
親しい生き物の死も喜びになるらしい。
お嬢様が油断なく杖を構えた。
「あなたがダ=ダンザね?」
「そ~ぉとも、王女さま~。ワシの素晴らしい研究成果を味わいに来たのかのぉ~?」
「フザけないで!」
「ふぉっふぉふぉ~、ワシは大まじめじゃ♪ なにせ異界から、強い生命体を呼び出してカーマインと融合させたのはワシじゃからの~。天才たるワシには、不可能などないわ~!」
なるほど、それでヴァンパイアが現れたのか。
「おぉ! そうそう、ガイコツ君や~?」
イカれたドワーフが私を指差した。
「元はお主も、ワシの研究成果じゃよ~?」
――なに?
「ふぉっふぉふぉ~。イーディアス様の復活方法を探っておったときにのぉ~、『反魂の法』とかいう、ステキな教えを見つけたんじゃ~。クスリ漬けで保存しとった死体の肉を取っ払っての~、みずみずしい骨なら魂を宿せるというんで、早速やってみたんじゃよ~。思い立ったら即実行じゃ~!」
うわぁ……。薄々そうなんじゃないかと思っていたことが、確定したよ。
「ワシは、失敗かと思って捨てといたんじゃが、成功しとったんじゃな~。いや~、カーマインが喋ってくれたわ。いい子じゃったよ、カーマインは~」
以前、この体にいた人物は、魔法陣の対岸でハシャいでいるドワーフに殺されたらしい。その後、骨にされて突っ込まれた魂が私、と。
「おぉっと、もちろん、素材には磨きをかけたぞ~? 黒魔法が強い相手ほどお主に親しみを感じるようアレンジしたし、邪な土を敏感にかぎ取ってもらえるよう、茶色の魔力が豊富な骨にしたわ~い。それもこれも、すべては骸骨王さまをお迎えするためじゃ~」
ああ、すべてお前の仕業だったのか。
なぜ私が悪党に好かれるのか疑問だったが、イーディアスの依り代の練習用だったんだな。
「さて、ガイコツ君以外は、みんな献体かの~? ふぉっふぉふぉ、嬉しいぞ~い。実験はトライアンドエラー! 犠牲がつきものじゃ~!」
たわ言はもうゴメンとばかりに、ピエールが爺の防御魔法を【魔法霧散】で引き剥がした。すぐさま、お嬢様が【排水】を放つ。いい連携だ。
しかし、必殺と思われたお嬢様の青魔法は、魔法陣に吸い込まれてしまった。
「ふぉっふぉ~! 引っ掛かりおった~!」
魔方陣は、エネルギーを吸収すると、ボワッと発光した。
「相手を攻撃するための魔法は無粋じゃからの~! すべてイーディアス様を復活させるパワーにさせてもらうわ~い!」
すかさずモーフィーが爺に向かってダッシュした。
「なら、拙者が切るまでだワン!」
「ふぉっふぉふぉ、元気じゃの~」
ダ=ダンザがスイッチを押すと、天井が開いて、大量の人骨が降ってきた。
「犬人は骨が好きじゃろ~? ワシの最高傑作と、たっぷりお遊び♪」
モーフィーと爺の間に骨の壁が築かれた。構わず刀で一閃して吹き飛ばすも、すぐにまた元通りになる。
「ワン!? ならば、もう1度だワン!」
骨の壁が光りだした。モーフィーは斬りかかろうとしている。
――マズい!
「みんな、伏せろ!」
骨の壁が爆発した。お嬢様たちの絶叫のなか、骨の壁は次々と別の形に組み上がっていく。
「ふぉっふぉふぉ~、爆発はロマンじゃが、これで倒すのもまた無粋。キレイな献体が手に入らんからの~。――おおっと、完成したわい。最高傑作のドラゾン君じゃ♪」
巨大な竜の骨格に再形成されたソレは、荒々しく咆哮した。