180話目 一方的な展開
血も涙もないやりとりで、カーマインをフッた。
「兄者……まさか、これしきを防いだぐらいで、ヴァンパイアに勝てると思っているのか?」
「さてな。もっとも、それだけ自信があるのなら、私と1対1の勝負ぐらい受けてくれるだろう。それとも、怖いか?」
「そんなワケがなかろう! 兄者との決闘、受けて立とう!」
カラスと融合したからか、それとも元からか知らんが、こいつ頭が弱いな。ここは撤退して、別の人間を山ほどしもべにすれば良いだろうに。
あるいは……惚れた弱みか。
好きな人のためになら120%の力が出せる。ステキな展開だ。
では、その好きな人「と」戦う場合は?
「――思い直さぬか、兄者?」
「無理だ」
骨抜きだな。
私のどこに惚れたのか知らんが、同情はしてやろう。
手加減はせんがな。
カーマインは両手に黒いオーラをまとうと、私に襲いかかってきた。
すかさず頭をカーマインの背後に投げつけ、全身バラバラになる。
「リセット」
体を戻しつつ、カラスのダメージ具合をうかがうが、効果はイマイチのようだ。
やはり銀で攻撃すべきか。――ならば、これだな。
私は【土】を唱え始めた。カーマインが反転し、ちょうど眼前に迫ったタイミングでその頭上に発生させる。
ドザァアアアアアアアアーーーッ!!
大量の土で押しつぶす。
「ぐぐっ……兄者ァ!」
動けなくなった所を見計らって、銀の短剣でザクザク。抜け出してきたら、バラバラになって大逃げを図る。我ながらひどいコンボだ。
師匠、これは悪用ではありません。悪を退治する用です。
カーマインはフラフラになりつつ私を見据えた。
「あ……兄者がそうするのであれば、我が輩もこうしよう」
カーマインはしばし集中したのち、ブワッと霧になった。
“兄者の核にまとわりついてから解除しよう。少し傷をつければ、我が輩の意のままに……フフフ”
おい、少しヤンデレ入ってきたぞ。
「カーマイン。その姿だと呪文なども唱えられないようだが?」
“ご忠告はありがたくいただこう、兄者。されど、この形態は物理的に無敵だ。存分にシェイクしてくれていいぞ?”
ほう、吠えたな。
【土】をドサドサ落としてやると、いっときは散り散りになる。しかし、まとまったら元通りで、ダメージもなさそうだ。
ならばと、【風】を起こしてみるも、少し広がるだけでピンピンしている。
“フフフ……兄者の魔法は茶色だけのようだな。赤があったら蒸発していた。危ない危ない”
たしかに、炎ならそれが出来たな。もっとも、ちょっとヤケドするぐらいで人間形態に戻るだろうが。
「ア、アンちゃん……あかん、勝てへん……。ワテらに構わんと、逃げてや……」
うるさい鳥だね。
「みなさん。少しの間、目と口を閉じてて下さい」
私は茶色のキューブを使って【砂嵐】の準備をした。すぐに発動し、細かい粒が猛烈に荒れ狂う。
“フフフ……視界をさえぎって逃げる気か? それとも、まさかダメージ狙いか? ――霧には効かぬぞ、兄者!”
砂嵐が収まった頃、カーマインはハデに拡散していたが、やはりダメージはないらしい。
“とらえた!”
霧の一部が、とうとう頭蓋骨内にまで忍び込んでくる。
“兄者の大切な核だ……あとは、我が輩が寄り集まり、変化を解くだけ。さあ兄者、何か言うことはあるかな?”
ふむ。
「展開図を知ってるか、カーマイン?」
“――は?”
私は、茶色のキューブをこれみよがしに振ってみせた。
「このような立方体をな、平面にバラしたときに出来る図のことだ」
“すまぬが兄者、数学にも建築にも興味はないぞ”
「おや、残念」
私は【力場】を頭上に展開した。2m×2mの半透明なものである。
「この形、お前の棺桶だというのにな」
次の瞬間、四方に伏せていた【力場】を一気に起こす。
“なっ!?”
回避を試みたようだが、時すでに遅し。【力場】で作った立方体により、およそ半分ほどが内と外で泣き別れとなった。
「カーマイン。お前の骨や筋肉、あるいは細胞のひとつひとつまで引き離した。無理して人型になったら悲惨なことになると思うが、やってみるか?」
“あ……兄者ー!”