176話目 ホーリーライト
私は、兵士が集合するまでの間に、洞窟の内部情報を国王たちに書いた。
「なるほど。以前聞いていたのがここか」
「はい。私は奥の鍾乳洞に倒れていました。梁があったのはこの辺です」
7ヶ月前、おかしなドワーフとニアミスし、そして今、吸血鬼が発生した。
偶然とは思えない。
山ほどのキューブを【軽量化】してもってきた兵士たちは、続々と補助呪文で固めていった。
みなが集まったのち、国王が告げる。
「白魔法が攻防で重要だ。兵士たちはいつも以上に白魔道士を守れ」
「はい!」
マルヨレインとブリジッタも、白のエキスパートなので駆り出されている。ドロテーは自分の母親を助け出すためモチロン来ているし、お嬢様も青の使い手として来ている。城に残っているのはミーケ1人だ。
――ここで全滅したら、悪夢の再来だな。
内心鼻で笑う。ダークエルフのミシェルは、セレーナが協力法案を可決させて以来、夢を見ていないらしい。
姉のピエールは、モーフィーやピルヨとともに、お嬢様を専門で守るチームに入っている。
便りのないのはよい便り。悪夢が消えたのは吉報だと願おう。
各自【解毒】薬を服用し、対吸血鬼用の注射セットも持つ。三文判ほどの大きさで、グッと押し込むと、少し針が出て薬が注入される仕組みだ。
効くかどうかは分からない。だが、始めから諦めるなど論外だろう。
「作戦開始だ!」
「はい!」
部隊がすぐさま洞窟へと突入した。
入り口にあるゴブリンの住居エリアでは、吸血鬼の兵士と散発的に出会った。
「【ホーリーライト】ザマス!」
マルちゃんが杖を光らせるや、吸血兵がのたうち回る。――おお、強いな。
壁際に追い詰めたところで、【解毒】のアンプルを素早く注射。吸血兵はうなり声を上げたのち、ぐったりとした。
ブリジッタが【生命感知】を使う。
「陛下。彼らの反応が、正常に戻りました」
「よし……まずは一安心だ」
非情な決断を強いられるおそれもあったからだろう、国王は安堵の息をついた。
「この調子で、どんどん治療だ!」
【ホーリーライト】や【神聖武器】、【神聖防護】を駆使し、鍾乳洞の入り口までを制圧する。
しかし、順調なのもそこまでだった。
「ブリジッタ。ヴァンパイアは近くにいるか?」
「いえ、陛下。みんな奥の方にいます」
指差した先には、【闇】が広がっていた。吸血鬼の状態でも呪文が使えるらしく、こちらの【光】が届かない。
「ふむ。向こうも我々の出方をうかがっていたか」
――敵味方、探知系の呪文が大活躍だな。
吸血鬼と化したのは、コルネリア王妃やアルノルト衛兵隊長を始め、錚々たるメンバーだった。無論、中には【生命感知】の使える者もいる。
おそらく、先ほどまでの兵士は捨て駒だったのだろう。【生命感知】は状態の変化も分かるので、ヴァンパイア化が急に収まったのなら、向こうも気付く。単独でノコノコやってくることはあり得ない。
向こうはじっと、時が経つのを待てばいいのだから。
「ヴァンパイア化が進んでいる以上、踏み入らねばならないか」
「はい」
切り傷も、直後であれば【治癒】で元通りになるが、時間が経ったあとでは、痕が残る。その痕は、【治癒】では治せない。
国王は、黒キューブを掲げた。
「【無の領域】! 対象は、青と白魔法以外すべてだ!」
その途端、吸血兵たちの【闇】が吹き飛んだ。こちらの補助魔法はほとんどその2色だったため、影響は軽微である。
国王は、すぐさま【無の領域】を止めた。
「突撃!」
戦いが始まった。相手の動きを白魔道士の【ホーリーライト】で制御しつつ、【解毒】の薬を使っていく。
吸血軍団は、噛みつきが通じないと見るや、こちらを昏倒させようと狙ってくる。
「ほほほ……妾にその程度か」
――この声は。
合戦の最中、こちら側の衛兵を尻尾で弾き飛ばす漆黒の王妃がいた。
「ヴァンパイアの力……気持ち良いぞ? 皆もなると良い」
国王も他の王妃らも、他で大激戦を繰り広げている。
お嬢様が振り向いた。
「ガイ、モフモフ! コルネリア様を押さえて!」
「はい!」
「承知したワン!」
2人がかりで挑もうとするが、まずはモフモフに猛ダッシュして尻尾アタック、そのエネルギーを利用して私に回し蹴りを入れる。
「ホホホ……殺しに来れぬ相手など、妾の敵ではないわ」
ピエールの【ホーリーライト】も、すかさず【闇】で潰してくる。お嬢様目掛けて一直線だ。
「マーサの娘よ。お主なら、少しは妾を楽しませてくれるかえ?」
「うぅっ……」
マズいな。模擬戦の時より動きにキレがある。まともに接近戦が出来そうな人間は、軒並み吸血鬼だ。並みの人間が相手をすると骨が砕け散るぞ。
――私が行くしかない。
リセットして体を再構築していると、金色の拳法着を身にまとった女が、コルネリアの前に立ちはだかった。
「ガイ、スラヴェナ。――ここは、あたいが行くよ」
ドロテーが、拳をパシンと叩いた。




