175話目 吸血鬼とりが吸血鬼になる
「では、早速隊を組んで向かうとしよう」
え? 対策はコレだけか?
「陛下。お待ち下さい」
たまらず声を掛けた。
「ヴァンパイアの情報を整理しておくべきです」
国王は怪訝な顔をした。
「ヴァンパイア……? ガイ君、何かな、そのモンスターは」
――まさか。
会議室をゆっくり見回すと、王族や事務方や護衛の誰1人として、ピンときていない。
――この世界にいなかったのか!
たしかに、モンスターといえばゴブリンだった。骸骨やスライムなど、人ではないという意味で広義のモンスターと呼ぶが、基本は言葉が通じないゴブリン、あとは畑を荒らす害獣などをモンスターと呼ぶ。
「陛下。ヴァンパイアとは、噛んで血を吸うことにより、その相手もヴァンパイアにしてしまう、恐るべきモンスターです」
「待ってくれ、ガイ君。通信してきた兵士によると、鏡を見ていておかしくなったと言うが」
「おそらく、鏡の裏が見えるタイプの、マジックミラーになっていたのだと思います。ヴァンパイアは、目を合わせることで相手を麻痺させたり魅了できたりします」
「だが、噛まれてはいない」
「ヴァンパイアは、霧になることも出来ます。マジックミラーの隙間から表に出て、兵士にまとわりついたのでしょう。様々な小動物に変身できますので、その状態で血を吸えばヴァンパイアを増やせます」
「霧や小動物なら、鏡に映るだろう」
「いいえ。ヴァンパイアは映りません。影もないことが多いです」
「――強いな」
「そうですね」
改めて聞かれると、吸血鬼はとんでもなく強いな。
国王は、フーッと息を吐き、会議室の天井を見上げた。
「ガイ君。君はヴァンパイアとやらに詳しいようだ。特徴を説明してくれ。そして、弱点があればそれも頼む」
「かしこまりました」
個体差があるという前置きをしてから、列挙していった。
・犬歯が長い
・目が赤い
・血を飲んだ相手はヴァンパイアになる、あるいはしもべとなる
・霧になれる
・コウモリを始めとする小動物になれる
・怪力
・空が飛べる
・視線によって魅了、もしくは麻痺
・通常の死がない
・日光に当たると消滅、もしくは動きが鈍る、もしくは灰になる
・灰になる場合、邪な土の場所に持っていくと復活
・銀の武器に弱い
・初めて訪れる建物は、招かれないと入れない
・鏡に映らない
・影がない
・信仰を伴った聖なるものを恐れる
・心臓に白木の杭を打ち付けることで殺せる
「これが、ヴァンパイアの能力と弱点です。当てはまらないおそれもありますが」
「いや、十分だよガイ君。とくに日光は、聞いておいてよかった。ヴァンパイア化を解除する前に外に連れ出したら、消滅の恐れがあるんだろう? 討伐隊を救い出したのに灰になったりしたら、目も当てられない所だった」
国王の表情からは、必ず救うという強い意思が感じられた。
「闇の属性が強い相手だ。夜になって各地に散らばったらパンデミックになる。――みんな、今日中にカタをつけるぞ」
「はい!」
瞬く間に準備は終わり、各自【高速飛行】で現場に急行する。
「ねえ、ガイ」
お嬢様が、飛行中に尋ねてきた。
「なんか、こうしてると出会った時を思い出さない?」
「ええ、そうですね」
国王の【高速飛行】によって、ソネの町近くのダンジョンへ飛ぶ。
「ここだな。全員集まるのを待とう」
続々と衛兵らが飛んでくるなか、私とお嬢様は顔を見合わせた。
「ね、ねえ、ガイ……? ここってまさか」
「左様でございますね、お嬢様」
そう。
まさしく、最初に出会った洞窟だ。