174話目 最強の敵
城の会議室で、ドロテーが手を2回叩いた。
「まっ、これであとはお袋が帰ってくるだけだな。残りを討伐して終了だぜ」
コルネリアは、諸外国に散った王族らが帰るまで、ゴブリンスレイヤーとなっていた。チーム「消耗品」を始め、数々の冒険者や兵士らとともに討伐して回っている。
お嬢様が賛同した。
「ミシェルさんも、少しずつ悪夢が改善されていってたみたいね。2週間ほど前からは悪夢を見てないっていうし。ね~、パパ?」
「油断は禁物だけどね、スラちゃん」
国王が苦笑いを浮かべた。
「まあ、コルちゃんも張り切ってたからねぇ。もうじき帰ってくるハズだけど」
そのとき、連絡が入った。通信兵がまず通話をし、それからダーヴィド国王に回される。
国王は、すぐにスピーカー機能を使い、みなに聞こえるようにした。
「ああ、コルちゃんの部隊だね。今ちょうど話してた所だよ。もうすぐお城かな?」
『――すみません! 申し訳ございません!!』
通話越しに、土下座でもしていそうな勢いで謝罪される。
『コルネリア様が率いる討伐隊……全滅しました!』
会議室が凍り付いた。
国王が、目を閉じて静かに深呼吸する。
再び開眼したときは、冷徹な面差しとなっていた。
「状況を説明せよ」
『はい!』
場所は、ソネの町近くの山腹から入るダンジョンだった。始めは順調にゴブリン討伐をしていたらしい。
しかし、開けた鍾乳洞に出ると、鏡があったそうな。
「鏡、だと?」
『はい! 山ほどの鏡が、壁一面に』
「それを調べたのか」
『はい! そうしたら……1人の冒険者が、仲間を攻撃し始めたんです! 肩をガブリと!』
――ん?
『すぐに取り押さえましたが、今度は、その噛まれた奴が仲間に向かって噛み付きだしたんです!』
「鏡を【魔力視覚】で見ていたか?」
『事前に魔法チェックは済ませました! 鏡に魔力はなかったんです! それからはどんどん仲間が敵になっていきました!』
おいおい、ゾンビものか。
『赤い目でした! 犬歯が伸びてました! それを使ってガブリと、仲間が次々と敵になっていったんです!』
――訂正。ゾンビじゃない。
もっとヤバい奴だ。
『私は……なんとしても陛下に伝えろと、魔具を託されました。洞窟内で、なんとかつながる場所を見つけて……。し、しかし……もう、駄目です……!』
兵士の嗚咽が聞こえる。
「行くまでこらえろ」
『不可能です……さ、先ほど、私も噛まれました!』
うわあ……。
『ああぁぁあ……い、意識がどんどん薄れて……シギャーーーーっ!!!』
ほどなく、ハデな破壊音を最後に通話が切れた。
ドロテーは、未だショックから覚めていないようだった。
「ウソだろ……? 全滅?」
「ドロテー様。お言葉ですが、生きてはおられるようです」
「あんなので、生きてるって言えるかよ!」
勢いよく立ち上がったドロテーは、歯を食いしばった。
「――すまねえ、ガイ」
「いえ、お気持ちはお察しします」
たしかに、単に生きているだけで、意識があるかどうかも怪しい。ドライに考えれば、戦力をごっそり取られた状態だ。ある意味、全滅よりもキビしい。
国王は額を押さえた。
「噛み付き、と言っていたな……。感染治療の霊薬を用意させよう。先に飲んでおけば、予防にもなる。ドナト、人数分の手配をしろ。感染者の分も含めてな」
「かしこまりました」
事務方の牛人が頭を下げた。
大変なことになったが、コルネリア討伐隊がやられた相手はハッキリしている。
血を吸う化け物……ヴァンパイアだ。