表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/188

172話目 さらばヴェスパー

 セレーナ評議員の初登庁を、私は傍聴席で見守った。

 北の議員はすでに座っていた。全員喪服で、反ドラッグ陣営にはロッセッラ、サルヴァトーランジェロ、テレーザが、ドラッグ陣営にはトビアとマッダレーナがいる。3対2だ。


 南の島の議員が入場してきた。やはり喪服で、ガブリエーレ、ジャコモに続き、ディアマンテを従えたセレーナが登場だ。


 ――補欠の方が堂々としてるな。


 船長急死のニュースは、大々的に報じられた。裏の顔を隠したまま死んだため、みな哀悼の意を表して喪服なのである。


 ノヴェッラ婆さんの席にセレーナが座ると、対岸からロッセッラが声を掛けた。


「ヴェスパーにようこそ~、王女様ァ~ン」

「はい。しばらくご厄介になります」


 余裕の返しに、ロッセッラはつむじを曲げたらしい。すぐさまターゲットを鹿ビッチに移した。


「ね~、あなた男と盛ってンでしょ~? 今度遊ばな~い?」

「え!? い、いや、アタシ女だし……ですし!」

「ア~ラ、お姉さん気にしないわ~? どっちでもホイホイ食べちゃ~う」

「ひえぇ~!」


 おやおや、そのお姉さんに気に入られたか。やったね、ビッチちゃん。また少し寿命が伸びるよ。


 評議会が開始し、まずは議長の選出となった。順当にガブリエーレが選ばれる。


 セレーナが手を挙げた。


「本来の議案がございましたが、まずはクスリについて。生前、フェリーチャ船長はクスリ撲滅のために尽力されておりましたが、彼女ほどの人物でも魔が差してしまいました。天涯孤独で遺書もなかったようですし、経営されていた病院は、国でしっかり管理していきたいと思います」


 異議なしの声が上がる。――えげつないね。船長の財産を差し押さえだ。もし「もらえる権利がある」などと抜かす奴がいたら、そいつはネクロ教団だから、確認が取れ次第、【魔弾】をブチ込むわけだな。


 テレーザが手を挙げた。色白な彼女も、今日は黒服だ。


「それでは、みなさま。イェーディルへの協力法案の賛否を問いたいと思います」

「グハハ……では、賛成の者は挙手を」


 テレーザ、セレーナが挙げて、ロッセッラと猿も賛同する。慌ててディアマンテも手を挙げると、クスリ陣営の3人も従う。

 カメが木槌を2回叩いた。


「全会一致だな」


 見事に可決された。






 イェーディルからの護衛組は、シビッラを除いて一足早く帰っていた。


「わたしは、セレーナ様のお付きです。大事なときに休んでいたのは痛恨の極みですが、右手の腱鞘炎以外は復活いたしました。どうか、再びお側に仕えさせて下さい」

「シビッラ……ええ、もちろんよ」


 2人はしっかりと抱き合った。





 ネクロ教団が報復してこないかと思っていたが、ドン・マウロやヒゲの元議長が暗躍しているらしい。


『おっほっほ……マリーノの奴め、よほど議長席が退屈だったでおじゃるな。お供の爬虫人を連れて、アジトをツブして回っているでおじゃる』


 奴らも総力戦だったらしく、カネと人員をあらかた吐きだしたようだ。その根元を叩いているから、ネクロ教団は私たちへのちょっかいどころではないのだと言う。


『ほっほ、密漁系のシノギも取り締まりたいでおじゃるな。クスリで汲々としたネズミは、海へ出てくるでおじゃるから』


 はいはい、クスリに溺れさせようとしていた奴らが、海で溺れるんだな。


『ガイ殿、本当に残らぬでおじゃるか? 海産物は美味でおじゃるよ』

「ありがたいお誘いにございますが、私が去ることで作戦が完遂いたします。何より、私はスラヴェナお嬢様のお付きですので」

『左様か。その王女は、よほどの傑物であろうな』


 そう言われると苦しいな。総合力だとセレーナに負けてるだろうし。

 まあ、これからだよ。





 私とセレーナの別れは、ひっそりと行われた。


「セレーナ様は、本日が誕生日だったのですね」

「ええ、そうよ。2月14日」

「仰って下されば、何かプレゼントをご用意いたしましたのに」

「いいのよ。特大のものをもらったから。可決をね」


 セレーナは顔をほころばせた。


「最後に、聞いていいかしら?」

「なんなりと」

「わたくしとセレナって、似てた?」


 私は苦笑した。


「いえ、まったく似てません」

「アラ、好きだったんじゃないの? わたくしの顔や姿が好きなら、今度こそはって、思ったことなかった?」

「いいえ。むしろ、あなた様のお顔はこりごりでした」

「けっこう失礼ね、ガイさん」


 シビッラを始めとする護衛らも笑う。随分打ち解けたものだ。


「ガイさん。――みんなによろしく」

「かしこまりました」


 さらばだ、煮干しの日生まれの王女よ。


 私は1人、イェーディルへの道を歩き始めた。







 2週間ほど、孤独な旅か。悪くないな。


 そう思った矢先。


「アンちゃ~ん! 待ってや~!」


 ――おいおい、ウソだろ。


 振り向いた上空には、1羽のハーピーが。


「いや~、島はお祭り騒ぎも終わったやろ? 絶対飽きるで~」

「ピルヨさん……離れて下さい」

「なんでや、アンちゃん!?」


 うるさいからだよ。


 この瞬間、賑やかな帰国が約束された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ