表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/188

17話目 命はあざなえるナワのごとし

「あたしはね、貴族も貴族、大貴族。イェーディル城の王女様なのよ」


 私が黙っていると、お嬢様は自嘲気味に笑った。


「でもね……、全然エラくないの。パパ……ダーヴィド国王からはそれなりに愛されてるけど、他の姉妹からは何も出来ないってバカにされてるし。婚約だって……ええ、そう、あたしにも婚約話があったのよ?」


 え、このプクプクスライムに?

 信じられん。


「あ、いま信じられないって顔した」


 お嬢様、あなたは骨の鑑定士になれる。


「分かるわよ。――あたしも信じられなかったもの」


 スライムのお嬢様は、核から義肢を放した。途端に、魔力が私へと流れ込んでくる。


 少し、楽になった……? マズい!


「お嬢様!」

「でも、ダメね……。お城との血縁関係を結びたいって相手すら、あたしを見たら破棄しちゃった。えへへ……そいつ、すっごい無礼よね」

「お嬢様!」


 すぐに跳ね起きて、お嬢様に核を押しつける。


 私が楽になった……つまり、お嬢様への魔力供給が切れたということか!?


「それでもね、まだ、少しは痩せてたのよ……? そこからヤケ食いして、もっと太ったけどね……」

「お嬢様……!」


 核をくっつけても、お嬢様に魔力は流れ込まない。

 お嬢様が何か細工をしたのだろう。私には……分からない。


「あたしは、いらない子だったのよ……。だから、誘拐されたとき、実はちょっと嬉しかったの。『ああ、やっと価値を認めてくれる人が出てきたんだ』って。牢屋は……ちょっと臭かったけどね」

「や……やめて下さい……」


 失恋して、ドカ食いして、何も出来なくてバカにされ、あげくに死ぬだと……?


 それは……!


 そ、それは……!!




 前世の、私じゃないか……!!




「よく聞いてください、お嬢様」


 私はハッキリと言った。


「あなたを認めてくれる人は、必ずいます」

「ウソよ」

「お父上が認めてくれます」

「ええ……ダメな子だってね」


 内心舌打ちする。


「私が認めます」

「――そうね。あなたには、助けられたものね……」


 お嬢様は少し笑った。


「だから……私の命を、あなたに使うの……」


 私が押しつけていた大きな核を、お嬢様はやんわりと義肢で押し戻した。


「魔力をつないだから、それを持ってパパの所に向かって……。お城は、日の沈む方向にまっすぐよ……」

「お嬢様!」

「他人のものでも、1日ぐらいはもつはず……。あぁ、パパなら大丈夫。誰にでも、優しい、か、ら……」

「お嬢様、お嬢様!? ――おい! スラヴェナー!!」


 スライムの形が徐々に崩れていく。巨大な青いゼリーの外観が、少しずつ低くなり、代わりにのっぺりと広がっていく。


「スラヴェナー!!!!」

「おいおい」


 背後からの声。

 慌てて振り向くと、褐色の肌に尖った耳をした男が立っている。


「私の娘を大声で呼んで、いったいどうした?」

「あっ……」


 なぜいるのか、分からない。

 だが、「娘」と言った。

 それでは……この人が。


「ダーヴィド、国王……」

「いかにも」


 若そうな風貌だが、ファンタジーのダークエルフという種族は、不老と聞いたことがある。

 身長は、180より少し高いだろうか。簡素な旅装束でも、堂々たる王の威厳が感じられた。


「娘に持たせていた小瓶。あれを【追跡】していてな。今まで妨害されていたが、ようやくその魔力をキャッチしたのだ」


 ああ、あの解毒剤の瓶。――なるほど、常に持ってる品だ。

 お嬢様……助かりましたよ。奇跡はあるらしいです。


 歩み寄ろうとした直後。


 杖を構えられた。


「おぅ、ガイコツ。人の娘を誘拐して、あげくに核まで取り出すとはな。楽に死ねると思うなよ?」


 奇跡……私にはないかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ