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私はコレでやせました(300kg→3kg) ~悪役令嬢、育成計画~  作者: ラボアジA
8章 選挙劇場編

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167話目 シニャーデ島のいちばん長い日

 マリーノ評議長同様、アンジェロやヴァンダも票の融通を宣言した。いよいよ終盤である。


 さすがにその頃には、辻立ちするスタッフたちも声がかすれていた。


「最後の、最後のお願いです! セレーナをどうか使って下さい! カジノ構想で、クスリからの脱却を果たします! よりよき未来のために、セレーナ、セレーナに、1票をお願いします!」


 一生懸命な振る舞いは、ゼロかプラスだからな。やればやるだけ得である。


 その甲斐あってか、最終盤の情勢で、とうとうセレーナの票が当選確実圏内に入った。


「ありがとう、ガイさん。あなたのおかげで9万票になったわ」

「セレーナ様。まだ結果は出ておりませぬ。気を緩めないように」

「ええ、そうね」


 百里の道も、九十九里をもって半ばとす。

 選挙とサイコロは、結果が出るまで分からないのだ。





 投票日は、朝から騒がしかった。


 みな一様に、新聞記事にうろたえている。


 ――ああ、当日にバクダン投下か。


 一面には、「セレーナ、売国奴の確たる証拠発見!」という見出しが載っていた。

 内容に目を通すと、その「確たる証拠」とやらは明日載せるという、フザけた締めである。


「やられたわ、ガイさん……」

「問題ありません、セレーナ様。それよりも、決して動揺しないで下さい。本当だと思われます」


 汗を拭く回数が多かっただけで、ボロ負けするのが選挙だからな。


「あとは、中央と右上エリアの各投票所前に、人員の配備を。『間違った内容なので告訴を検討している』と、堂々と言わせて下さい」

「分かったわ……。落ち着いて宣言すれば、大ダメージは回避できるわね」

「ええ。多分これが一番少ないと思います」


 まあ……やってくれたな。

 証拠を載せるのが、「翌日」? 投票は今日なのに?

 セレーナを落とすのが目的なのだから、本当にそんなネタがあれば、今日出している。

 つまり、もっとも省エネな方法で、勝ちを拾いに来たわけだ。


“あはっ、昨日のアレ、誤報。メンゴ♪”


 こんな謝罪記事が、明日の三面に小さく載れば良い方だろう。


 ――リードは全て吹き飛んだな。


 セレーナを含め、投票権のある者は軒並み足を運んだあと、誤報を解くために投票所前に立って呼びかけを始めた。


「へっへ……それぐらいはできるさ……」


 ノヴェッラ婆さんも、投票したのち、誤解を解いて回る。


「今までクソババアに入れてくれた奴、ありがとよ。あたしの伝説は終わりだが、これからは孫のセレーナが面白いものを見せてくれるさ」


 本当はまだ具合が悪いらしいが、頑として立つと言い張った。人前では弱さを見せず、ふてぶてしいノヴェッラ節を披露してくれる。


 ――この語り口で、票を入れさせる気になるんだからな。本人にしか出来んワザだ。


 長年にわたって議員をやっていたからだろう、しきりに握手やサインをねだられていた。


「へっ、しわしわのババアの手ェ握って楽しいのかよ。お前ら、とんだ好き者だな」


 ――うますぎる。


 私は速やかに中央エリアの別の投票所へ回った。

 ちょうど投票する人の波が途絶えた所らしいが、構うことなく呼びかけを始める。

 しばらくして、年配の男性と、それを引率する優しそうな若い女性がやって来た。


「はい、おじいちゃん。投票所に着きましたよ~?」


 爺さんはヨタヨタと入っていき、しばらくして出てきた。


「ねえ、おじいちゃん? 『フェリーチャ』って書けた~?」

「んあ……? そうじゃったかのぉ……。セレーナと言われたから、セレーナって書いたんじゃが……」


 ああ、私が言ったのが聞こえたのか。


 その途端。


「はあっ!? おい、クソジジイ!」


 女性が豹変した。


「あんだけフェリーチャって書けっつっただろーがぁっ!」

「あ、あぁ……」

「テメー、耳も遠けりゃ頭もよえーな、ボケェ! テメーみてーなカス老人飼ってる理由が他にあんのかよ!! 覚えてろよオメェ、帰ったら……!」


 そこで般若は、私の存在に気が付いたらしい。瞬く間に、優しそうな女性に戻った。


「うふっ、おじいちゃ~ん? さっ、帰ったら、楽し~いお話しをしましょうね~」

「あ、いやじゃ……。いや、すまんかった……」

「なぁに~? 大丈夫よぉ、素直に打ち明けてくれたんだし、怒らないから~」

「あ、あぁぁ……」


 小柄な爺さんは、女性にガッチリと肩を押さえられて帰っていった。


 ――選挙は、マクロからミクロまで、人の欲望がむき出しになるな。


 食事でわずかに離れた以外はずっと立ちんぼを続けていると、まあ色々な人が訪れてくれた。

 マトモな人も多いのだが、明らかにクスリをやってるだろうという奴も投票に来る。


「フヒヒヒヒ……ガイコツ様じゃん。ネクロ教に来ちゃいなよ。フヒヒヒヒ……」


 笑いながら去って行く。


 ――あいつらを止めたいが、それでも1票を入れる権利はある。

 私は、この国の住人じゃない。

 選対長の立場で色々指示を飛ばしてきたが、それでも外国人だ。


 「セレーナ」と書く権利はない。




 冬はあっという間に暗くなる。

 すっかり日が落ちた頃、投票は締め切られた。

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