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165話目 白いヤツはヤバい

 若々しいフェリーチャの笑顔に、私は重々しくうなずいた。


「大変お美しゅうございます。あまりの眩しさに、私の目が潰れてしまいますよ」

「まあ、ガイさんったら」

「ははは」


 ――おぞましいな。

 よく、上に立つ者が下の人間の生き血をすするなどと言うが……。この魔女は、本当に生きるエネルギーをすすっていたんだ。

 クスリを蔓延させて薬物患者を増やし、そいつらに【活力奪取】を使って命をすする。船長は若さを得られ、ネクロ教団もイーディアスに山ほどの下僕を用意できる。


「うふふ……使用済みの黒キューブは、埋めると邪な土に変わるんですよ。クスリの精製に使えますの。とってもエコでしょう?」


 ああ、とってもエゴだ。イヤになるほど効率的である。


「そうそう、開票の様子だけはスクリーンで中継されますのよ? シニャーデ島は、本人とその弟子の結果が出るまで見守るのが通例ですからねえ。ガイさんの選挙戦術の仕上げを、間近でたっぷりと堪能させてもらいますわ」

「身に余る光栄です」


 はいはい。逃げ場なし、と。


「では船長、それまでの間は、名残惜しいですが、表だっての接触は控えておきたいと存じます」

「そうですね。――ああ、早くセレーナの肌をこの身に吸収したいわ。ダーヴィド王とブリジッタ王妃の血を引いた彼女はね、握手したときにキメの細かさが分かったのよ? あの美しさを取り入れたら、わたしの美貌はさらなる高みに上れるわ。はぁ、はぁ……」


 恍惚の表情を浮かべる船長。派手にトリップしているようにしか見えない。


「フェリーチャ様。クスリのご経験はございますか?」

「ないですよ? 商売道具には手を付けない主義ですから」


 ほお。つまり、患者は道具以下だと。


「わたしの体はね、清らかに保ちたいの」

「それで健康なのですね」

「ええ。長生きするわよ?」


 その後も、胸くそ悪くなるネクロ談義に花が咲いた。適当に話を合わせると、非常に喜ばれる。


「素晴らしい逸材だわ、ガイさん。選挙の終わりを楽しみにしているわね」

「はい。吉報をお待ち下さい」


 ――お前を叩きのめすという吉報をな。


 私は、病院という名の「地獄の館」から、なんとか生還を果たした。




 セレーナと合流したさい、思った以上に心配された。


「ガイさん、大丈夫だった?」

「ええ、なんとか」


 【契約】系の魔法は、自ら宣言しているのが肝だ。そのため、【呪い除去】は効かない。顔の右半分と脳みその全部が崩れた魚人が語ってくれた。あとで自分でも調べるが、おそらく真実だろう。


 セレーナを勝たせると私が死に、負けるとセレーナが死ぬわけか。

 フェリーチャ船長……お前は前世を含めても、出会った中で一番醜い奴だった。おめでとう、瀬玲七を超えたよ。


「それよりセレーナ様。票の買収という情報をつかんだとか」

「ええ。左下では、貧困層からお金で票を買ってたのね」


 誰から得ても1票なら、コストの安い票をかき集めるのは当然といえる。

 セレーナは頭を振った。


「でも、心までは買えないわ。それぞれの投票所には、陣営ごとに監視を出してるし、不正は行えないわよ」

「いいえ。ほんの少し手心をくわえると、買えます」

「えっ?」


 何を甘いこと抜かしてるんだか。




 簡易的な投票箱を用意してもらった。監視は「神4」にお願いする。


「では、私が今からセレーナ様の名を書いて、投票します」


 少し離れた、ついたて付きの記入場所に行き、ペンでカリカリと音を立てる。そのまま用紙を半折りにして、投票箱の中へ。


「入れました」

「そうね」


 神4のメンバーらもうなずく。


 ――これが罠だ。


「私が今入れたのは、よく似た色のタダの紙です」

「えっ!?」


 護衛らが慌てて箱をあらためる。


「と、投票用紙ではありません!」

「――ガイさん、どういうこと?」

「簡単です。出さなかったんですよ」


 私は、白紙の投票用紙をヒラヒラしてみせた。


「本物はここに」

「と、投票の権利を捨てただけじゃない!」

「いえいえ。仕込みの第1段階です。――ダルマツィオさん」


 私はダルマを指差した。


「あなたは今、投票権を売りに来た人です。それでは、私の見ている前で・・・・・・・・、『ジャコモ』と書いて下さい」

「むむむ……」


 何がむむむか知らんが、さっさと書け。


「はい。では今書いた紙を持って投票所へ行き、用紙をもらって下さい。そして、書き込む台の所に行ったら、今もらった紙と、『ジャコモ』と書いた紙とをスリ替えて下さい。ええ、スムースにやれば怪しまれませんよ」


 ダルマツィオは、スリ替えた用紙を投票箱に入れた。


「どうも、お疲れ様でした。あとは、その白い投票用紙を私にくれればOKです。引き替えに、謝礼をどうぞ」


 セレーナは口をパクパクさせた。


「に、人数分、確実ね……」

「はい。――ああ、最後の1人は、重ねて入れますのでご心配なく」


 この仕組みは色々と応用もきく。今回のは、投票先を完全拘束するやり方だ。

 前世なら犯罪だが、ここなら問題ない。


 ――結論。白票は買える。

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