表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/188

164話目 堕ちたる者

 船長にお呼ばれした会合は、つつがなく終了した。


「フェリーチャ船長。代理の私だけの参加となってしまい、申し訳ありませんでした」

「いえ、よろしいのよ。お忙しい中、ガイさんだけでも足を運んで下さって良かったわ」


 相変わらず、会うたびに死臭が強まっているが、船長は元気いっぱいだ。死神もこの匂いはイヤなのか?


「ガイさん。この後、内輪で集まりがありますから、ぜひ参加なさって下さい」


 いつもと違い、警備がものものしい。病院の地下で懇親会を行っていたが、脱出をさせない配置だろう。


「ええ、私も船長とお話ししたかったです」


 嬉しそうに返事をしておいた。




 そして私は、同じ会議室にて、人相の悪い魚人どもに囲まれていた。

 船長が、盗聴防止用の装置を発動させる。


「さて、ガイさん。どのようなおつもりで、護衛に言わせたのかしら?」

「ドラッグマネーの件ですか」

「ええ、わたしがクスリ漬けだとか」


 ふむ、図星か。

 ヘタに弁明をしたら、今日が命日だな。死して屍、拾う者なし……すでに骨だが。


 私は頭蓋骨をなでた。


「船長へのアピールにございます」

「あら、どういう事かしら」

「私は現在、セレーナ陣営の選対長に収まっております。――ええ、セレーナを落とす・・・ための、絶好のポジションに」


 対面のフェリーチャをうかがうと、ゆっくりお茶を飲んでいる。


「あぁ、どうぞ。続けて」

「はい。あなた様ならお分かりのことと存じます。クスリ撲滅の旗頭となっておられる、フェリーチャ船長ならば」


 自分たちは同じだと説きつつ、恭順の意を示す。


 船長は、頭の船飾りを下ろした。


「ガイさんの力を借りずとも、別に良いのですけれどねぇ」

「ごもっともです。しかし、小者を追い詰めたら、ヤケになって暴発するやもしれません。暗殺、毒、爆弾……万一の危険は、常に孕んでおります」

「そうですわね」

「私は、選挙で船長のお手を煩わせることなく、『頑張った。でも、ダメでした』という結果に着地させます。実は、これを手土産に、フェリーチャ様の陣営に取り入ろうと考えておりました。こうして接触できたのは僥倖です」


 骸骨型のランプが照らすなか、船長は笑みを浮かべた。


「嬉しいけれども、あなたは口が上手いでしょう? 舌で丸め込まれるかも」

「いえいえ、滅相もない。私には舌がありませぬ」


 骨ジョークに、船長は吹き出した。


「ええ、ええ。わたしはガイさんの事を信じるわ。イーディアス様と同じ種族ですしね。けれど……それでは納得しない人も大勢いるの。分かる?」

「はい」


 今ニラんでくれてる強面の方々だな。


 顔の右半分が溶けた魚人が、私の肩甲骨をつかむ。


「よお、ガイコツ。俺のガイコツを見ろよ」


 返事も聞かずに、手にしたドクロを顔へと押しつけてくる。


「口はよくウソをつく。だから、【死の契約】だ。今ぺらぺら喋ったことをもう一度言え。それから外れたとき、お前は死ぬ」

「信用がないですね」

「このまま出してやってもいいぜ、骨? 魔力の核はツブすがな」


 どっちみち死ぬ、と。


 船長はほほ笑んだ。


「ごめんなさいね。信用は命より重いのよ。彼らのために、命ぐらい懸けられるでしょう?」


 御免被るが、言わざるを得まい。


「ヴェスパーに入れば……ヴェスパーに従え、という事ですね」


 すぐさま契約の準備がなされた。禍々しいオーラを放つドクロに、手を乗せるよう言われる。


「おう、骨。宣言しやがれ」

「はい。――私、ガイギャックスは、今回の評議員選挙で、セレーナ候補を敗北させることを誓います」


 その途端、オーラが丸ごと私にまとわりついた。


「なっ……!?」

「あら、契約は初めて? 彼も命を削って魔法をかけてるの。頑張って、耐えてちょうだいね」


 フザけるな! ぐあぁ……!


 気色悪さに、たまらずバラバラになるが、オーラは骨の1本1本に染み渡ったらしく、契約が成立したのが分かる。


 船長が、ニコニコ顔で見下ろしてきた。


「よかったわ。これであなたも仲間よ」

「――どうも」

「では、今度はわたしの秘密を見せてあげます」


 大人しくリセットし、フェリーチャの後をついていった。

 向かった先は病室である。


 ――船長の護衛もゾロゾロついてきたから、さながら総回診だな。


「1日1セットは、欠かさずにやってるのよ?」


 船長は、護衛から黒キューブを手渡しされた。もう片方の手は、ベッドに横たわる病人に触る。


「【活力奪取】」


 呪文が発動するや、物言えぬ病人がさらに干からびていく。


 ――なに?


 代わりに、船長の肌が少しみずみずしくなる。


「ああ……命のエキスをすするって、快感ね……」


 ――こいつは、ドス黒い悪魔だ。


「ねえ、ガイさん。人は見られると綺麗になるって言うでしょ? これが本当のわたし……ああ、選挙でも注目の的だし、もっと美しさに磨きをかけたいわ。今日もいっぱい吸うわよ?」


 船長は、薬物患者たちを次々とハシゴしていった。


「うふふ……議員の条件はね、生きてることよ。キレイでなければ、生きてる意味がないわ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ