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162話目 船を見送るピエロ

 敵だと強くて、味方になるとポンコツとか、お前は漫画の仲間キャラか。


「バンビーナさん。あなた、マトモに動けるんですね。なぜそのパフォーマンスを、候補者のときに発揮できなかったんです?」


 軽い指摘だったが、見る間にバンビーナは落ち込んだ。


「す、すみません……。どちらかと言うと、あれがワタシの地なんです」


 子鹿はリビングの椅子に座った。


「弱いワタシを克服しよう……お母さんやお父さんみたいな、立派な大人になろうって、必死に頑張ったんですけど……」

「その結果、コロッセオで優勝したんですか。おめでとうございます」

「いえ、あれは……本当に組み合わせが良かっただけって思ってますから、はい」


 実際に、抽選の妙もあったのだろう。例えば、スラヴェナお嬢様が早々にブノワ師と当たったら、その時点で負けていたハズだし。


「それでも、運の良さを引き寄せられるほどの実力になれたのはスゴイですよ」

「あ、ありがとうございます」


 鹿は恐縮していた。


「ですけど……生まれつきの弱虫気質は治りませんね。評議員の候補に選ばれた時こそ、嬉しくて舞い上がってましたが、爆弾には怯えてばっかりで」

「あなたの実力なら、立ち向かえそうですけどね」

「命が懸かってると思っただけで、体が震えちゃって……」


 あぁ、思い込みが激しいんだな。婆さんは、これを解きほぐそうとしていたのか。

 しかし、セレーナが予知夢を知らせたことで、ネクロ教団が活発になってしまい、間に合わなくなったと。


 バンビーナはほほを掻いた。


「人間の器って、やっぱりありますね……。クスリ撲滅を訴えようって気持ちで、候補者の話を受けましたけど、ワタシには、評議員の地位って重かったです」

「不慣れだっただけですよ」


 墓場で泣いていたと聞いたとき、真っ先に思ったのは私自身のことだった。思い出に浸った、哀しきピエロの路線に入っているのではないかと。

 しかし、彼女はすでに、自分の船を漕ぎだしている。

 ならば……優しく見送ってやれば良い。


「警官は何年目です?」

「2年目です」

「最初の年はどうでした?」

「そりゃあ、結構ヘマが多かったですけど……」

「やっぱり慣れですよ。あなたは今、立派に警官をやれています」

「いいえ、こっちも……いっぱいいっぱいですよ?」


 バンビーナははにかんだ。


「でも、お母さんやお父さんの思いを継ぎたい、クスリで不幸になる人を1人でも減らしたい……そう思うと、力が湧いてくるんです」


 バンビーナは、胸のブローチをそっとなでた。


「いえ……借りてるんですね、今も」


 形見の品なのだろうな。


 「なんのために活動するのか」といった動機は、とても重要だ。

 絶望に襲われたさいの、撥ね返す力になるから。


「バンビーナさんは、仮に大悪党が悪さをしていた場合、きちんと逮捕できますか」

「それは大丈夫です」


 容疑者を逮捕した警官が、責任を持って48時間まで拘束できるそうな。


「しっかり取り調べを行います」

「左様ですか」


 彼女は、「評議員」としては準備不足だった。

 しかし、「警官」としてなら大丈夫だろう。


「あ、あと、セレーナ王女様に……」

「なんでしょう」

「『ご迷惑をお掛けしました』と。――もう、謝る機会もなさそうですし」

「分かりました」


 囮で決着した話だからな。表立っては謝罪すら叶わないか。


「あ! も、もちろん、これで済んだとか思ってません。ノヴェッラ議員にも多大な迷惑をお掛けしましたし、一生かけて返していくつもりです」

「そうお思いでしたら、市民のためになるよう、巨悪退治に精を出して下さい。それが、ひいてはノヴェッラ様やセレーナ様のためになります」

「はい」


 澄んだ目だ。覚醒したな。

 ――っと、クスリの島で「覚醒」はマズいか。


 私は2、3個質問をしたのちに、バンビーナ宅をおいとました。

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