16話目 骨の名は
「それにしても、お嬢様。私がリセットを狙ってることによく気付きましたね」
「何度も見てたしね。あと、あなたの骨を持っておけば、あたしが攻撃されたときのお守りになるかなって思ったのよ。戻す骨が選べるってのは初めて知ったけどね」
「ははは……私も初めてです」
「えぇ……ウソォ」
他愛ない話をしながら、ふもとの町までの道なき道を下山していた。
ワザと、明るい口調で振る舞うお嬢様。正直、深刻にされるよりもありがたい。
残された時間は1時間を切っていた。
リセットを使いすぎたらしい。
戦闘のあと、すぐにお嬢様は調べてくれた。
どうあっても間に合わない。
それが分かったあとは、不思議と穏やかになれた。
お嬢様がゴブリン4体を食べたそうだったときも、「どうぞ、お召し上がりください、お嬢様」と勧められたぐらいだ。
むしろ、食べるため、生きるために相手を殺したと言い訳ができる。ありがたい。
おかしなものだ。前世では、牛や豚を何匹も食ったというのに。
意外な収穫もあった。
ボスの革鎧だが、私が着けてみると、しっくりきたのだ。
正確には、やや大きかったのだが、肉と皮があれば、ジャストフィットした感触がある。
おそらく、鍾乳洞でこの世界の私は死んだ。その鎧を、ゴブリンが剥ぎ取ったのだろう。
革鎧の内側部分には、名前が書かれていた。
ガイギャックス。それが私の名前らしい。
「ええ~、カッコ良すぎない? それに、ちょっと長いし」
「普段はガイでいいですよ、お嬢様」
ボスの持っていたショートソードも、他のゴブリンの物とは違ってしっかりした作りだった。杖や髪飾りに価値はないとのことなので、剣と鎧だけもらって下山する。
歩かないという選択肢はなかった。
歩ける事が嬉しかったから。
その後、足取りが重くなってきても、少しずつ下山していた。
遠かろうと、一歩ずつ歩く。
お嬢様の父親がいる城下町はおろか、ふもとの町にすら辿り着かないが。
半分ほど来たところで、お嬢様が止まった。
「ガイ……あなたの魔力が、もうすぐ底をつくわ……。ねえ、休みましょ……」
「いえ、私はまだ……」
「あ、あたしが休みたいの! こ、こんなに歩いたのは久々だし!」
「――分かりました」
スライム様に配慮されてしまった。
そう、配慮だ。
私にも分かる。何せ、お嬢様より遅くなってしまったから。
ふふっ……。私がこの世界でしたことは、カラスを追い払って、ゴブリンを倒して、スライムを助けただけか……。
お嬢様は、横たわる私の側でじっとしていた。
「なんで……なんでガイが、こんな事に……?」
「分かりません。ですが……お嬢様を助けるために遣わされたのかもしれません」
そう。助けられたのはスライムのお嬢様だけだった。
「行ってください、お嬢様。そして、あなたが活躍したとき、変なガイコツに助けられたという話をして下さい。それで誰かを笑わせられたら、幸いです」
「そんなのは……ダメよ」
お嬢様は、私を上部に乗せて、そのまま歩き出した。
「ガイは、あたしが助けるわ」
すぐバテた。
「ぜーっ……、ぜーっ……」
「フフフッ……。これに懲りたら、少しはお痩せください」
「もう……ほっといて、よ……」
張り切って進むから、すぐ息が上がるんだよ。
先ほどもゴブリンを食べたしな。お嬢様の戦闘力は53貫です。
いえ、 53です。
「ちょっと……、何が面白いのよ」
「いえいえ、滅相もない」
まあ、つかのま楽しめた。
賑やかなお嬢様が黙ってしまうと、途端に静かになる。
「お嬢様、何か喋ってくださいませ」
「――ねえ」
お嬢様は、いつになく真剣な声色だった。
「あたしは……スラヴェナ」
「存じておりま……お嬢様?」
お嬢様は、自らの核を取り出した。
「ガイギャックス……あなたが生きるべきよ」




