157話目 ガイP「落ちたら死ぬ!! アイドルをマスターせよ!!」
前回の選挙結果です。
○ノヴェッラ 120000
○ガブリエーレ 100000
○フェリーチャ 90000
○ジャコモ 70000
次アンジェロ 60000
私は、前回の投票者数を見せた。
「セレーナ様とディアマンテは、共にノヴェッラ様の孫です。つまり、票を食い合う関係ですね。なので、まずは鹿ビッチ対策です」
「ええ、それは分かったわ。でも、この服は……」
「向こうの集客法に相乗りします」
私はピンクのドレスを押しつけた。
「アイドルになって下さい」
「理屈は分かるけど……無理よ、わたくしには不向きだわ」
なんだそりゃ。
私は耳元でささやいた。
「落ちたら死にますよ? あなたも……そして、善良な2ヶ国の市民も」
セレーナは苦悩に満ちた表情をした。やれやれ、そんなに向いてないと思うのか。
私は新聞も取り出してみせた。
「この戦法は、記事の売国奴扱いを利用できる強みがあります」
「悪名よ?」
「ええ、無名に勝りますね」
ヨットと同じで、無風が1番困るんだ。完全無視を決め込まれたら、始動にも時間が掛かっただろう。
「自信満々ね、ガイさん」
「はい。2重国籍絡みでの売国奴という叩き方……王道じゃないですか」
つまり、想定済みである。
私はセレーナを見た。
気品に満ちた佇まいで、理性を感じさせる面差し。厳しい教師だけあって、強さも兼ね備えている。本来なら、これだけでも戦えるだろう。
だが……本人が、あえて避けていることがある。
「あなたには、『弱さ』を見せてもらいます」
「はぁ?」
そう。セレーナに決定的に足りないのは、弱さだ。
「あえてスキを見せることで、親近感や好意をもってもらいましょう。――そうですねぇ、まずはバンビーナのような、怯えた仕草をマスターしてもらいます」
「ガ……ガイさん? 手の動きが、何か怖いのだけど」
大丈夫だ、プロデュースは任せろー。
「やめてー!」
ふはは、無駄なあがきを。ほれ、バリバリいくぞ。
「キャー!」
幸い、護衛らがいるので、セレーナの演技には率直なダメ出しをしてもらった。
中でも、良し悪しをハッキリ示してくれる4人を「神4」と呼び、彼らが無表情で座っている時は仕草を変えさせ、食いついてきた時はその動きを覚え込ませるようにした。
おかげでセレーナは、すっかり疲労困憊の様子である。
「こ、これは、世界を救うため……ええ、そうよ、人々を救うためなのよ……」
「セレーナ様? ブツブツうるさいですよ? あと、表情もカタいですねぇ」
「分かってるわよ!」
怒った直後、すぐさまナヨナヨしてみせる。
「ああ……そんな事をおっしゃらないで下さいまし……。わたくし、本当はとても、気が弱いんですの……」
護衛どもが、席からガタガタッと立ち上がる。あー、何度も見てきたが、男って本当に単純だよな。
ともあれ、なんとかサマになってきた。
休憩中、セレーナはずっと頭を押さえていた。
「こういう女、大ッキライなのよ……」
安心しろ、私もだ。
効果は抜群だった。
売国奴呼ばわりした奴らに向かって、こらえきれずに泣いてみせたのだ。――お前、キライなわりにすぐ泣けるよな。
17才の清純派美少女がメソメソ泣く姿に、一般人はすぐ非難を引っ込めた。それでも罵倒しそうな奴は、護衛がさりげなく「排除」していく。非難する人数は圧倒的に減ったから、対処も格段に楽であった。
「みなさーん、歌だけでも聞いていってくださーい」
マイクを持って、流行りの歌を歌わせる。こうなると観客も心得たもので、合いの手が入ったり、「セレーナちゃーん!」と応援の声が入る。場の雰囲気とは、かくも重要なものなのだ。
「みんなー、ありがとうー!」
満面の笑みを浮かべるセレーナ。いやはや、実に演技派だ。お嬢様と姉妹というのを納得したよ。
歌い終わったあとは、すみやかに握手会へ移行。視線を残したりする技を巧みに用いつつ、グッと印象に刻む。
ピルヨたちハーピーが、ボランティアで入ってくれたことも大きかった。
「みんなー! 王女様の歌、聞きにきてやー!」
空からチラシをバラ撒かせる。
また、ピルヨママの口コミパワーも大活躍だ。
「そらまー、お婆ちゃんが倒れたから言うて、王女の地位捨てて出馬やろ? 泣かせるやないの~」
「せやわ、せやわ」
「ウチらが助けたらなアカンやろー」
「何したらいい、ウチ?」
「動ける人はピルヨのサポート入ったってや。あ、口から生まれたよーなんはバンバン広めたって。あぁ、いかんいかん。――ナイショやで、コレ?」
めちゃくちゃ広まるな、これ。頼もしい限りだ。
「ですけど、ガイさん。新聞の売国奴叩きは苛烈になる一方ですわよ?」
そうだな。この路線で惹きつけられる人は、大体こちらに向けさせたか。
「問題ありません。ここからが真骨頂です」
私は、黒と赤の衣装を見せた。
「次にあなたには、悪役令嬢になっていただきます」
「え?」