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153話目 選対とは、特撮ヒーローにあらず

「抗争とは、一般市民から見えない部分……いわば、ウラです。そちらはドン・マウロにお願いしますので、護衛の皆様はオモテを担当して下さい」


 魚人一同に「?」マークが浮かんで見えた。ああ、殺し殺されがフツーだと、オモテの意味が分からんか。


「ねえ、ガイさん。オモテとは、支援してくれる会社を回ったり、遊説したりすることでしょう?」


 おや、セレーナもその程度の認識か……って、生まれたときから数時間前まで単なる王女だったものな。ムリもない。


「オモテ選対に必要なのは、3つですね。足と手と目です」


 私はホワイトボードに書き込んだ。


「まずは足。一般市民のお宅を訪問して回ります。そして、『セレーナ王女をよろしくお願いします』と笑顔で言います」

「――待って」

「なんです、セレーナ様?」


 公職選挙法なんぞクソ食らえの世界だし、戸別訪問は有りだよな。殺すより断然ソフトだぞ?


「あなた……、シニャーデ島に何万人住んでるかご存じ?」

「えぇっと、ざっと計算しましょうか」


 私はメモを取り出し、ボードに書き連ねた。



○ノヴェッラ  120000

○ガブリエーレ 100000

○フェリーチャ  90000

○ジャコモ    70000

次アンジェロ   60000



「前回の選挙結果です。数字は投票者数ですね。泡沫候補は無視して、44万人ですか。この他に、投票しなかった人と、未成年者がおりますね」

「多いわよ!?」

「はあ。――だから、何ですか?」


 私は魚人たちを見渡した。


「それぞれのギャングの本陣以外は、残らず戸別訪問して下さい。――ああ、疲れてなげやりになるのだけは、絶対にやめて下さいね? 有権者はそういう所を確実に見抜きますので。逆効果になってしまいます」


 本気だと分かったのだろう、途端にざわつき始める。


「ガイギャックス選対長」


 ダルマツィオが手を挙げた。


「訪問時間はどうすればいい?」

「常識のハンイです。日中が良いですが、仕事で留守などの場合は再訪問ですね。終盤は夜も有りですが。――ああ、そうそう。在宅、不在、どちらの場合でも、『セレーナ候補への支援をよろしくお願いします』というパンフを渡しましょう。手書きで」

「て……手書き?」

「ええ、スタンプじゃダメですよ。これは、病院の負傷した護衛にやってもらいましょうね」


 ざわめきが大きくなってきた。


『で、出来るのか……?』

『島全部を、1軒1軒回る……?』


 バンッとボードを叩いてやる。


「出来るのか、じゃあありません。――やるんです」

「だ、だが……」

「ダルマツィオさん、発言のさいは挙手を」


 忌々しげに手を挙げる。


「はい、どうぞ」

「選対長、ここまでやる意味があるのか? ノヴェッラ様の得票を見ただろう。12万票でトップ当選だ」


 そうだな。


「また、セレーナ王女様は、孫であらせられる。しかも、ダーヴィド国王とブリジッタ王妃の娘だ。さらなる得票が見込めるだろう。仮に減ったとしても、次点が6万票か。半分よりは多いハズだ」


 あー、聞くだけムダだった。


 コツコツと数字を叩いてみせる。


「前回の選挙は、3年前でした」


 ペンで、フェリーチャから下の名前に×をつけていく。


「この面々が、ドラッグマネーにやられたと想定しております」


 どよめきが起きる。フェリーチャにも×がついたからだな。


「アンジェロというのは、ジャコモと一緒に来ていたハーピーですので、×をつけていいでしょう。――さて、クスリにやられてない票とやられた票、それぞれ何票ですか」

「――に、22万票ずつだ」


 正解。


「この3年の間に、ドラッグマネーは影響力を伸ばしていると考えられます。得票数も増えるでしょう」

「そ、それでも、セレーナ様は孫だから……」

「ダメ押しとして」


 ボードを叩き、人物一覧に「ディアマンテ」と書く。


「彼女が出馬しました。――この鹿もお孫さんだそうですね?」

「うっ……。だ、だがセレーナ様の方が優れている!」

「それを、どうやって名前だけで分かってもらうんですか?」

「王女だぞ!?」

「民の暮らしを知らない、と非難されるやもしれません。しかも、イェーディルとの繋がりを勘繰られるおそれもあります」


 私は頭を振りつつ、鹿ビッチの名前の下に「セレーナ」と書くと、「120000」から2つ矢印を出した。


「甘めに見て、それぞれ60000ずつ振り分けましょう」

「60000が3人……これなら、セレーナ様が優位だ」


 妄想にすがるなよ。


 私は、アンジェロの60000票を、ジャコモとディアマンテに30000ずつ振り分けた。


「あっ……!」

「はい。亀10万、船9万、ジャコ10万、鹿9万です。議席は埋まりました。セレーナ様は6万で敗北ですね」

「そ、そんな……」

「分かったら、足を棒にして下さい。移動は早く、応対は丁寧に、ですよ?」

「あ……ああ」


 魚に「足が早い」などと言ったら、腐りそう・・・・だがな。

 まあ、担ぐ神輿はセレーナだから、やる気は十分か。動機さえ示せば、キリキリ動いてくれるだろう。

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